第1話「動き出した運命」

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 ◆ 朝七時・ケロタンの家 ◆  《ピピピピピピピピピピピピピ!》  鳴り響く目覚まし時計。しかし、布団は既に(もぬけ)の殻。  「はぁ……。」  普段から早起きなケロタンは、やはり自分には必要の無い物だったかもしれないと、溜息を吐きながら軽く項垂(うなだ)れる。  しかし、折角のオーダーメイドを捨てる気にはなれない。  ケロタンは、渋々自分の姿を模した目覚ましの頭を叩きに行った。  家もそうだが、彼の持ち物には何故だかやたら自分の姿を模した物が多い。それだけ自分が好きということだろうか。  そうそう、好きと言えば、彼には大好物がある。それは今日の朝食のサンドイッチにも挟まれているウインナーだ。彼の一番の特徴と言っても過言では無い程に、彼はウインナーに目がない。  一応、誤解の無いよう言っておくが、これはロッグ族全てに共通することではない。  ロッグ族は実に多様な種族で、生まれ育った環境によって、属性、嗜好、体の形、皮膚の色等が大きく異なるのだ。  しかし、ケロタンには、生まれてから十数年分の記憶が無い。  自分の生まれも、力も、何故ウインナーが好きになったのかもよく分かっていない。  しかしながら、彼がそのことについて悩んでいる様子は見受けられない。特に支障は無い為、気にしていないのだ。  《朝七時七分になりました。ニュースの時間です。》  朝食をとりながら、ケロタンはテレビで朝のニュースをチェックする。  (何か面白いニュースないか……。)  代わり映えのしない退屈な日々。  彼は刺激を求めていた。それも超特大の刺激を。  そして――その願いは、唐突に叶えられることとなる。  《今日未明、アグニス城に何者かが侵入し、盗みを働いたとのことです。詳しくはピーペさん、お願いします。》  《はい! こちらアグニス城前!》  画面が切り替わり、アグニス城と、トンガリヘアのリポーターが映された。  《盗まれたのは巨大ロボットの設計図。部屋の窓ガラスに穴が空けられていたとのことで、犯人はそこから出入りしたものと思われます! 犯行時間は、今日未明、一時~三時の間だと、警殺(けいさつ)はみているようです!》  画面の奥で警殺と話すアグニスの顔は暗い。どうやら盗まれた設計図はかなり重要なもののようだ。  《現在、犯人に繋がる手掛かりは何一つ掴めておらず、警殺の捜査は難航すると思われます。   不審な人物を目撃した方、怪しげなものを見かけたという方は、すぐにシルシル警殺までご連絡ください!   以上です!》  《はい。ありがとうございました。   それでは次に、台風の被害状況をお伝え――》  《プツッ――》  ケロタンはそこでテレビを消し、残りのサンドイッチを(くわ)えた。  《バンッ!》  そしてすぐに、家を飛び出していった。
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