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◆ アグニス城・七階・寝室 ◆
警殺の事情聴取を終えたアグニスは、寝室に戻り、何やら物思いに耽っていた。
彼の視線の先にあるのは、片腕が通る程度の穴が空いた窓。
「………。」
起きた時、すぐに窓の異変に気付いた。
そして机の中を確認すると、設計図が無くなっていた。
「ふ……。」
笑うしかない。
「アグニス様。」
その時、扉の向こう側から兵士の声。
「来客ですが、いかが致しましょう?」
「客……?」
アグニスは怪訝な顔をし、扉を開けた。
「こんな時に誰だ?」
「それが……。」
◆ アグニス城前 ◆
「俺はケロタン! 私立探偵だ!! 事件について詳しくお聞かせ願う!!」
「帰れ。」
《バタン》
扉を開いたアグニスは、すぐに扉を閉めた。
「アグラ~ン! 困ってんだろ!? 入れてくれよ!!」
「お前の助けなど要らん!」
アグニスは知っている。このロッグ族――ケロタンのことを。
少し前に近くに引っ越してきた奴で、よく城を訪れては、兵士と一緒に食事をしたり、ゲームをしたりして遊んでいる変わり者だ。
定職に就かず、町の人々の仕事を手伝ったり、魔物を退治するなどして生計を立てているらしいが……。
「アグラ~ン!!」
「…………。」
アグニスは扉を睨んだ。
(読めん奴だ。)
過去の無い存在――。
それはアグニスにとって、とても不気味且つ、厄介であった。
◆ アグニス城・七階・寝室 ◆
「…………。」
寝室に戻ったアグニスは、扉の所で立ち尽くした。
「よっこらせっと……。あっ、やべ。引っ掛かった。」
ケロタンが窓の穴から侵入しようとしている。
「アグニス様。また警殺の方がいらっしゃいました。」
「通せ。犯人が見つかった。」
兵士にアグニスがそう言い終わった時、廊下の奥から不思議な歌が聞こえてきた。
「刀が求む悪魔の血。心が求むは永き贖罪。
赤い記憶の終焉に、咲き乱れるのは白い花。
憎しみ囚われ救われの、行き先変わらず地獄でも。
闇世に光を齎す為、復讐斬り捨て羽ばたこう。
例え正義と呼ばれずとも、罪を滅ぼす星となろう……。」
現れたのは、禍々しいオーラを纏い、鋭い眼光を放つスモールノーマン(1~2頭身の人間のような種族)だった。
両手には刀。青い帽子には、警殺のシンボルである斜めに斬り裂かれた赤い星――罪滅星が輝く。
彼の名はメッタギリィ。シルシル警殺のベテラン警殺官である。
「何か進展はあったか?」
「いや、とりあえず、町の住民にざっと聞き込みはしたが、収穫は0だ――って、あ? ケロタンじゃねーか。」
「うぎぎぎぎ……!! っと、抜けた!」
ケロタンは二人の目の前で城への不法侵入を果たした。
「何やってんだお前。」
「犯人は現場に戻るとはよく言うが、間抜けが過ぎるな。」
「おいおい、大変そうだから駆け付けてやったんじゃないか。少しは感謝しろよ。」
悪びれないケロタン。
「何を偉そうに。私はいつでもお前を牢屋にぶち込めるんだぞ。」
「まぁまぁ、王様。」
メッタギリィがアグニスを宥め、前に出る。
「今は馬鹿の力でも借りたい状況だ。」
「言っておくが、俺は犯人じゃないし、馬鹿じゃないし、何も見てないからな。」
「分かってる。お前には無理だ。」
「どういうことだよ?」
「確かに、犯人はこの部屋の窓に穴を空けた。
でもな。カーペットが殆ど濡れてないんだ。全く歩かれた形跡が無い。」
「おお。」
「しかも犯人は窓から離れた――そこの鍵付きの机の引き出しから設計図を盗んでいる。」
メッタギリィは、ベッドの横にある机を指差した。
「ってことは?」
「お前にできるか?」
「机の鍵は何処にあったんだ?」
「いや、そもそも犯人は鍵を開けていない。」
今度はアグニスが説明を始める。
「鍵はこれだが、これで開けようとすると警報が鳴る仕組みになっている。」
アグニスは引き出しの鍵穴に鍵を差し込み回した。
《ビーッ!!》
「じゃあどうやって開けるんだ?」
「声紋認証だ。――開け。」
《ピピピ》
引き出しはアグニスの命令に従い、開く。
「恐らく犯人は、魔法か何かを使ったのだろうな。」
「魔法……。」
ケロタンは考え込む。
「そういう魔法が使えるだけじゃなくて、あの嵐の中でもこの窓まで辿り着ける奴だ。普通じゃねぇ。」
メッタギリィは窓を睨む。
「んー。そもそも何で犯人はアグランがロボットを開発していることを知ってたんだ? 盗まれたのは設計図だけなんだろ? 計画的な犯行じゃないのか? 犯人に心当たりは――」
「いや、全く無いな。警殺にも既にそう話している。」
「んん……。犯人の狙いは?」
「そうだな。仮に恨みを持っている者の犯行なら、私の信用を失墜させようと企んでいるのだろう。
趣味で書いたものとはいえ、盗まれたのは正確には、軍事用ロボットの設計図。
平和主義を掲げる私の印象を悪くしようとしているのだろう。」
「え? ってことは……。」
「向こうが本気なら、そう遠くない内に攻めてくるだろうな。
だから盗まれたことは即座に公表した。」
「シルシルタウンの住民には、聞き込みの際に警戒するよう伝えておいたぜ。各地の警殺への連絡も、もう済んでる。ケロタン、ここまで聞いたからには、有事の際、お前にも働いてもらう。」
「そのつもりだよ。」
「ははっ! 期待してるぜ。」
メッタギリィはケロタンの体を刀で叩く。
「いてぇよ。」
「さて……、俺は町に戻るが、お前はどうする?」
「家に戻るよ、何かあったら連絡くれ、飛んでく。」
「全く……強引な奴だ。」
アグニスは溜息を吐く。
「よっこらせっと……。」
ケロタンは窓の穴に頭を突っ込んだ。
「何故そこから帰る?」
「えっ? いや、ここからが早――」
そんなやり取りをしている時だった。
《ゴオオオン……》
「……ん?」
彼らが僅かな地の揺れと低い音を感じ取ったのは。
「何だ……?」
「おいおい。嵐の次は地震かぁ?」
ケロタンとメッタギリィが頭に疑問符を浮かべる。
「いや、これは……。」
一方、何かを察したアグニスは、窓に近付いていく。
「どけ。」
「あんっ!」
「…………。」
ケロタンを蹴飛ばし、窓の外を見たアグニスは、目を細めた。
シルシルタウンから煙が上がっている。
「幾ら何でも早過ぎねーか?」
立ち上がったケロタンが横から覗く。
「ちぃっ!」
メッタギリィは舌打ちを声に出し、部屋から飛び出した。
「ふむ……、ケロタン。お前の意思が本物かどうか、早速確かめさせてもらおう。」
「おうよ。」
かくして三人は、シルシルタウンへと向かうのであった。
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