1人が本棚に入れています
本棚に追加
◆ シルシルタウン・巨大ロボット付近 ◆
「これは何だ?」
空から下りてきたメッタギリィとブッタギリィに駆け寄ったケロタンは、ロボットから出てきたオレンジ色の液体について尋ねた。
「いや、分からねぇ。どうもこれがこのロボットの中に……。いや、そもそもこれはロボットなのか?」
「魔物かもしれないな……。」
「魔物?」
ブッタギリィの発言に、ケロタンは疑問符を浮かべる。
「スライムが巨大ロボットの皮を被って町を襲ったってことか?」
「お前達!」
そんな話をしていると、アグニスが現れた。
「後は私が処理する。」
「どうしたんだ? アグラン。」
「このオレンジ色の液体――かなり強い放射線を放っている。ボロボロにされたくなければ近付かないことだ。」
「うええっ!? 回復魔法、回復魔法……!」
慌てて体中に魔法をかけるケロタン。
「ラド族である私は平気だが……、メッタギリィとブッタギリィ!」
名前を呼ばれた二人は、アグニスを見る。
「お前達も後で念入りに検査する。」
「ちっ……! 何だってんだよ、これは。」
「ここら一帯はしばらく封鎖。除染が終わるまで誰も近付けるな。」
「分かった。」
ブッタギリィは素早く返事をし、無線で部下へ命令していく。
アグニスは周囲に簡単に浄化の魔法をかけた後、ケロタンやメッタギリィ達の体を検査し始めた。
「俺あんまり覚えてないんだけど、放射線浴びるとどんな影響があるんだっけ?」
「……我々の体の細胞は、毎日、死と再生を繰り返している。
放射線は、細胞の再生に必要な染色体を破壊するんだ。」
「命の設計図ってヤツだな。」
横からメッタギリィが口を挟む。
「そうだ。すぐには影響は出ないだろうが、放っておけば、体はボロボロになっていく。設計図を失えば、新しい細胞が作られない訳だからな。」
「だ、大丈夫なのか? 俺ら。」
「問題無い。治療法はある。」
アグニスは服の袖の球体を少しいじり、何かの魔法を起動した。
ケロタンの体が光に包まれる。
「あぁ~、何か気持ちい。」
「王様、早く俺らにもやってくれよ。仕事が残ってるんだ。」
「ケロタンが優先だ。ロッグ族は放射線にかなり弱い。あの光線をまともに浴びていれば、お終いだっただろう。」
「怖いこと言うなよ……。」
「はぁ……お前は子どもじゃな――いや、そうか……。
記憶を失ってるんだったな。精神的には、まだまだ子どもか。」
「んなことねーよ。」
ケロタンは反発する。
「そんなことより、あのロボットの中に入ってたの……スライムだよな?」
「ああ、あの魔物……。何かを被るスライムというのは幾らか確認されているが、自然発生したものではないだろう。」
「……!」
アグニスの言葉に、メッタギリィとブッタギリィが反応する。
「人工的ってことか? 確か駄目な奴じゃ……。」
「そうだ。」
現在、人工的に魔物を作り出すことは禁止されている。
「……アグラン。本当に犯人に心当たりないのか?」
「私と同じ魔科学者である可能性は大いにあるな。そして……。」
アグニスは警殺達に目配せした。
「まだ……終わってないみたいだな。」
「はぁ……。」
顔を伏せ、何やら考え事を始めるブッタギリィとメッタギリィ。
「?」
ケロタンは疑問を抱くが、この場でそれが解消されることはなかった。
◆ アグニス城・地下・保管庫 ◆
その後、住民達の身体検査と魔法による町の除染を終えたアグニスは、破壊された建物の修復をしかるべき業者に任せ、ケロタンと共に城へと戻った。
そして地下の保管庫にケロタンを招いたアグニスは、ガラスケースの中から拳より一回り大きいサイズの丸い石を取り出し、彼に差し出した。
「協力の礼だ。これをやる。」
「何だ? この石。」
「勇者の石。聞いたことないか?」
「あー、何だっけ。」
「百個揃えれば願いが叶うという奇妙な伝説を持つ石だ。
信じる者の間では、高値で取引されている。」
「ふ~ん。」
ケロタンはアグニスから石を受け取ると、手の上で転がしたり、軽く上に投げたりした。
黄色いような青いような……。どうやら見る角度によって色が変化するようだ。
「ま、いいや。売ってウインナーに変えるさ。」
「好きにするといい。」
アグニスは寛容だった。
「それで、アグラン。これから設計図盗んだ犯人捜すんだろ?」
「ん。ああ、そうだな。さっきの一件で、犯人はだいぶ絞られた。すぐに見つかるだろう。」
「ん~、そうか……。もう俺の出る幕は無さそうだな。」
ケロタンは少しがっかりした気分だった。
何かが始まる予感がしたのに、当てが外れたか。
「…………。」
アグニスはそんな様子のケロタンをじっと見つめた。
「平和が気に入らないのか?」
「いや……、そりゃ平和が一番だよ。悪いことなんて起きない方がいい。でも……。」
「お前、何か夢はないのか?」
「夢……か。特に無いな。」
「哀れだな。」
「…………。」
記憶を失っていなければ、また違ったのだろうか。
「はぁ……、何かもっと……面白いこと起きねーかなぁ。」
ケロタンはそう言って、保管庫から去ろうとした。
その時だった――。
《ピカーッ!!》
ケロタンは眩い光に襲われた。
「うおっ、なっ、何だ……!?」
「おい、こんなところで魔法を使うな。」
「ちげーよ! 石が勝手に――!」
「!!」
そう、光り輝いたのは――勇者の石。
…………。
これが、彼らの始まり――。
二人の……長い長い運命の物語の始まりであった。
(第1話 End)
最初のコメントを投稿しよう!