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第2話「勇者の石」
◆ アグニス・ランパード城・六階・研究室 ◆
「んー……。」
アグニスはコンピュータの画面に表示された分析結果を見て唸った。
構造や構成物質に変化は無し。
謎の発光現象を見せた勇者の石は、やはりただ魔力を帯びただけの、何の変哲も無い石ということか。
「なー、アグラン。まだ終わらないのかよ。」
何分も拘束され、痺れを切らしたケロタンが文句を言い始める。
「…………。」
しかしその声は、思考を始めたアグニスの耳には届かない。
(勇者の石があれほどの強い光を放つなどという報告は今までに無かった。
ケロタンと何か関係があるというのか……?)
アグニスは壁にだらしなく凭れかかっているケロタンを見つめた。
「そういえばお前、さっきこれを投げたり転がしたりしていたが、もう一度同じように動かせるか? あれで魔力の流れ方が一時的に変わったのかもしれん。」
「いや、無茶言うなよ。覚えてないって。」
「はぁ……、大発見になるかもしれないというのに……。」
魔科学者としての血が騒ぐのか、アグニスは落ち着きを失っていた。
「えっと……確か百個集めた奴の願いを叶える……だっけか。」
ケロタンは分析台に乗せられた勇者の石をガラス越しに見つめながら、アグニスに問うた。
「……あぁ。何処の馬の骨とも分からぬ預言者が言い出したことだがな。すっかり定着している。」
「本当にそんなにあるのか?」
「さぁな。誰が作った物なのか、どのようにして大陸中に散らばったのか、記録が残っていないから分からない。預言者もとっくに亡くなっているし、どういう意図で発言したかは確かめようがない。
真に受けた時の為政者は、金を使い、人を使い、勇者の石を探したそうだが、今までに見つかったのはたった十二個。勿論、一箇所に集めても何も起きやしない。
今でも探しているのは、余程の馬鹿か、トレジャーハンター、遺物マニアといったところだ。」
「ふ~ん……、で、何で勇者の石って名前が付いてるんだ?」
「魔物の多い危険地帯から見つかることが多かったから、いつの間にかそう呼ばれるようになった。」
「そうか……。何か気になるな。」
「……他の魔石と比べて、大した力は持っていない。
だが、パズルのピースのように、集合することで初めて意味を成すという可能性は否定しない。
私に大陸各地を探し回る時間は無いが……、もし、ケロタン。
お前がやると言うのなら、私は手を貸そう。
先程の発光といい、この謎は魔科学者として、決して無視できるものではない。」
「へっ……。」
ケロタンは笑みを浮かべ、立ち上がった。
「こういうのだよ。こういうのを待ってたんだ。
やっぱ冒険にはでかい目標がなくちゃな。」
「ふっ……。」
(今の話を聞いて乗ってくるとは。)
「一応、聞いておくか。本当に願いが1つ叶うとしたら、お前は何を願う? ケロタン。」
「そうだな……。」
今度はケロタンが深く考え込む。
「本当に願いを叶えるなんて力があるなら……俺は……。」
「…………。」
「腹いっぱいウインナーを食べたいかな!?」
「はぁ……まぁ、そんなところだろうと――」
《ピカーッ!!》
「は!?」
再び勇者の石が強い光を放つ。
「え? 俺また何かしでかした?」
「くっ……!」
アグニスは急いで石の状態を調べる。
そうしてコンピュータの画面に表示されたのは、先程とは異なる結果。
「これは……!?」
アグニスはガラスの向こうを見た。
そこには勇者の石の他に、太さ約1.8cm程度の棒状の物体が存在。
その正体は豚肉……すなわち――。
「ウインナアアアアアア!!」
《ガッシャアアアアンン!!》
強烈なタックルにより、ケロタンとウインナーを隔てるガラスは木端微塵に砕け散った。
「おい、待て! 馬鹿、食うな!」
アグニスは急いでケロタンを取り押さえようとしたが、ウナギのように腕をすり抜けられ、ウインナーは彼の口に吸い込まれていった。
「んぐんぐ……。」
「はぁ……はぁ……。おい、味は?」
「美味い!」
「…………そうか。」
こうして、二人の意思は完全に決まったのだった。
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