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「吾郎ちゃん、また」
男性は無造作に札を一枚出してカウンターに置き、立ち上った。「よい夜を」
男性は軽くマスターと女の子に手をあげ、店を出て行った。
美香はあの男性よりも「ずっとずっと好き」な相手を見つけたのだろうか。そうやって恋をして、華やかさをどんどん身につけて、生きて行くのかもしれない。
ぼくはボンド・マティーニをぐっと飲み干した。そしてもしかしたら、あの『彼』の方がぼくよりずっと辛いかもしれないと思った。
夜の繁華街を暫く歩いた。
好きな人がいっぱいいるというのは、美香らしいと言えば言えた。彼女は幼い子どものような感性で、みんなに笑顔と快適な時間と想い出を残していく。男にとって完璧な女性。それが彼女だ。
彼女の罪はただひとつ、あの合鍵でもって、男たちの心を盗んでいく事だった。
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