今日でさよなら

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 立派なカウンターがある店で、カクテルの大会で何度も優勝しているマスターと、若い女の子のバーテンダーがいる。  この店は美香が連れてきてくれた。彼女がボンド・マティーニを頼んだのもここだった。  客は多かったけれど、カウンターの左端が空いていたのでそこに腰を下ろした。女の子が前に来た。ぼくは何となく、ボンド・マティーニを頼んだ。  女の子は笑顔で会釈して手際よくカクテルを作り、ぼくの前にすっと差し出した。若い子だけれど、見事な手捌きだった。  ぼくはひと口飲み、確かこのカクテルはふた口で飲みきらなくてはいけない、という美香の言葉を思い出した。けれど飲みきってしまうと、美香との思い出もどこかに消えてしまいそうな心細い気分で、グラスを見つめた。
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