今日でさよなら

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「ひとつ何かが終わると、これを飲む。そう決めてるんでね。ここでは初めてかな」  男性は見るともなくぼくを見て、笑った。けれどうまく笑顔を作れていなかった。眼が寂しげなのだと思った。 「お仕事、ですか」 「いや、女の方さ。長く一緒に居たけど、どこかに行っちまった。そういう関係で居ようとは言ってたけどね。戻ってくるだろう、そう思ってたんだろうな」  マスターはこちらも見事な要領でカクテルグラスに薄い乳白色の液体を注ぎ、男性の前に差し出した。  男性は左手でグラスを取り、味わうように飲んでふっと息を吐いた。そして、スラックスのポケットから何か取り出した。  それは、ぼくが美香から受け取ったのと同じ化粧箱だった。男性は無造作に箱を開けて、鍵を取り出し、マスターに見せた。 「鍵ですね」
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