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美香はまた唇を尖らせて見せ、その返す刀でくすっと笑った。相当な殺傷力だった。
ぼくの気持ちは既に、今座っている小洒落たバーの入っている建物の床を突き抜け、ビルの床と地面さえ突き破って南米の田舎町の石畳の上に到達しているのかと錯覚するほど落ち込んで、心のあちこちが火傷のようにちりちりと痛んだ。
「そうなんだ」
「彼がね。ちゃんとお別れしてきなさいって。だからこうして来てもらったの。ごめんね。忙しいのに」
美香はすまなさそうに肩を竦めて見せた。そしてスノースタイルのマルガリータのグラスに口をつけた。美香には珍しいセレクトだった。小さな紅い舌が唇の間から少し見え、次いであのきらきら光る指が、グラスの口紅をすっと拭っていく。塩は落とさなかった。
ぼくもグラスのジン・トニックをあおった。喉がからからだった。
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