11人が本棚に入れています
本棚に追加
ぼくの事が好きだと告白してきたのは美香の方だった。こんな若くて美しい娘が自分のような中年男に、と腰が退けたのも懐かしい記憶だ。ぼくは勿論その告白を請け、美香と付き合っていた筈だった。帰りが遅い日が多いからと、いつでも来ていいように合鍵を渡したのが二か月前。以来何度も彼女はぼくの部屋に泊まっていったし、沢山愛し合ったし、温泉旅行に行った事もあるし、クリスマスだって一緒だった。仕事中は分からないけれど、どこにそんな他者の介在する時間的余地があったのかと思うくらい、ぼくは美香と一緒に過ごしていたのだ。
「一つ、いいかな?」
補習に出ている学生のようにぼくは軽く右手を挙げて、尋ねた。
「はい、たっくん」
美香がぼくを指さして返した。こういう態度が厭味にならない不思議な女性だった。
「その彼って、どんな人なの?」
美香はにっこりと口角をあげて微笑んだ。輝かんばかりの笑顔だった。
最初のコメントを投稿しよう!