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「とても素敵なひとよ。大人で、寛容で、優しくて、でも厳格な所もあって、大きくて、包んでくれるような人。あ、たっくんだってとっても優しいんだよ。でも、彼は違うの」
これ以上訊くのは自分で自分の傷口をナイフで抉るようなものの様に思えて、ぼくはげんなりとした気分になった。
美香が腕時計を見た。高価な海外ブランドのものだけれど、ぼくはその時その時計を初めて見た。今まで一度も、彼女がしてこなかったものだ。
「ごめんなさい、時間が無いの」
「え、あ、そうなの?」
美香はカクテルをもうひと口飲んで、鞄とコートを手に立ち上がった。よく考えればその鞄も、ぼくがあげた鞄ではなく見た事が無いものだった。確か日本では手に入り難いほどの高価な品の筈だ。
ぼくもつられてジン・トニックを飲み、少し口許から垂れた雫を手で拭い、立ち上った。
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