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「今日中にあと二人、お別れしないといけないの。彼が、こういう事はきっかけが大切だから一度になさいって」
「二人?」
髪をはらうような感じで、美香はそれが当然といった感じで頷いた。
「急がないと」
美香は伝票のボードをさっと取り、出口に向かった。ここは自分で払うという、他人行儀な意思表示だった。ぼくは先ほどの小箱を咄嗟に手に取り、美香の後を追った。
「じゃあ、ここで」
建物の外に出た美香は、敬礼をするような仕種をして、笑顔で立ち去ろうとした。
「ちょっと待って」
ぼくは未練がましく声をかけた。
「ぼくとの事は、遊びだったの?」
自分がこんな台詞を人生の中で、しかもこの歳にもなって言おうとは夢にも思わなかった。けれどそれはどうしても聞いておきたい質問だった。
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