今日でさよなら

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 美香との日々はぼくにとってとても大切で、充実していて、笑顔が溢れて、それはそれは素敵な時間だった。それがこんな形であっさりと終わりを告げるとは考えられなかった。  しかも、他に男性が居たというのはどうにも信じられなかった。何かのっぴきならない理由があって別れを切り出したのではないか。どうしようもない事情があるのではないか。  或いは、本当にものの見事に遊ばれたのか。これから恐らくぼくと同じ思いをするだろう男達も、きっとこの答えを聞きたいに違いなかった。  美香は少し間をとった。小さい女の子が拗ねる時のような顔でぼくを見る。 「そんな顔しないで」  そう言いたいのはぼくの方だった。 「たっくんの事、好きだった。大好き。遊びなんかじゃない」 「でも、『彼』がいるんだろう?」  だんだん自分が嫌になってきた。こんな嫉妬心がぼくの中にあったとは驚きだった。
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