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洋菓子が入っているような綺麗な化粧箱を、美香は細く丁寧にネイルした指先でぼくの前にすっと滑らせた。薬指だけ、きらきら光る装飾が施されている。
「何?」
不穏な空気を感じたぼくが精いっぱい怪訝な表情を作って尋ねると、美香はその指を胸の前に持って行って両の指先を重ね、そこに顎を載せて首を傾げてみせた。
綺麗にケアされた栗色の髪の毛が店内の少し暗めの白色灯の光を受け、天使の輪を作っている。くりっとした瞳も薄い茶色で、全体的に色素が薄くて彼女自身が甘い洋菓子の様だった。グロスの効いた薄めの唇は口角が常に上がったままで、不満など言わなさそうにさえ見える。
今もその態勢のまま、ちょっと唇をすぼめてぼくの顔を窺うように見ながら、美香は言った。
「彼がね。もう逢うなって」
「彼?」
美香は正直な子どもの様な頷きで返した。
「彼がいるの?」
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