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その夜は部屋で一人静かに筋トレをしていた与晴。
『助けてくれ。駐車場に来てほしい』
茂山からのそのメッセージに気付くと慌てて指定場所に向かった。
車の運転席から降りて来たのは吉田。驚いて彼女に詰め寄った。
「どうしたんですか!? 先輩に何かあったんですか!?」
今日の上司の予定は知っていた。
茂山に加えて吉田がいるから大丈夫と任せていた。
しかし……
「大丈夫、ちょっと酔っ払ってるだけだから」
「与、落ち着け。雄翼は無事だ」
後部座席の扉が開くと、そこには自分の上司が寝転がっていた。
「起きなさい。着いたよ」
フラフラと起き上がったつばさは酔っていた。
与晴の顔を見て笑って言った。
「おー。我が相棒くん。久しぶり。元気かね?」
「泥酔じゃないですか!?」
座席から転げ落ちそうになった彼女を慌てて支えて与晴は驚いた。
酷く呑んで酔っているのだろうと思いきや、酒臭く無い。
「……なんでこんなに酔ってるんですか?何をどれだけ飲ませたんですか!?」
人としても警察官としても適量を心掛けていたはずの上司が泥酔している。おかしい。
「落ち着け。レモンサワー1杯。以上」
「本当ですか? 普段、その倍以上飲めるのに?」
「ほんとだよ。わたしが見てた。
とりあえず、詳しい話は後。部屋まで連れてくよ」
吉田の寮への立ち入り許可をすぐ取って、三人はつばさを部屋まで連れて行った。
ベッドに押し込むと、彼女は沙代から子どもの頃もらったといううさぎのぬいぐるみを抱き寄せ、すぐに寝息を立て始めた。
その姿を可愛いと一瞬思った自分を律し、与晴は吉田に向いた。
「……袖崎さんと問題が?」
吉田は今日の出来事を掻い摘んで彼に話した。
「……与、岩井警視正にその素振りは?」
「いえ。無かったです。ただ、やたら息子扱いするので先輩は怒っていましたが」
茂山は上司に向かって言った。
「やっぱり両警視正は子ども同士をくっつける気ですかね?」
「でもこの子の恋愛対象は変わってないから無理でしょ」
茂山はベッドサイドの写真立ての中を見て忌々しく言った。
「ですよね。まだ宮田が好きですから」
吉田は彼を嗜めた。
「……あんまりアレを無根拠に疑うとあんたの身が危なくなるからやめなさい。
袖崎さんはわたしと西谷でどうにかする。班長にもこの件言っておく。
茂、与、岩井を引き続き頼む」
「了解」
「了解です」
吉田はつばさの寝顔をもう一度見た後、踵を返した。
「じゃあ、わたし帰るわ。お休み!」
彼女をペアの茂山が慌てて追う。
「姐さんお待ちを。お送りします!」
「大丈夫。車で帰るから」
「玄関まで送ります! 管理人さんへ報告要りますし!」
与晴も規則正しい寝息を立てている上司を確認すると、
二人に続いてつばさの部屋を後にした。
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