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朝。スマホが電話の着信を知らせている。
誰だこんな朝早くに。
つばさは苛立ちながら、深く考えず電話に出てしまった。
「……もしもし?」
酷く低く不機嫌な声だと我ながら思い、相手の反応を待った。
『……あ、えっと。お義父さんですか?』
耳に届いたのは和義の声。
そこでようやくつばさは覚醒した。
古いスマホに掛かってきた電話に、相手を確認せず出てしまっていた。
『……お義父さん?』
とうとう婚約者にも間違えられた。
またもショックを受けたが、仕方ないと割り切り、父のフリをする。
「……すまない。娘の電話に出てしまって」
『……まさか、つばささんは、容態が悪いのですか?』
いつになくハリが無い彼の声がつばさは気になった。
「……いや。大丈夫だ。順調に回復に向かっている。……まだ声は出せないが」
『……そうですか』
ため息が聞こえた。
「……元気が無いようだが? 大丈夫?」
『……はい。大丈夫です』
「……そうか。でも、和義君も身体には気をつけて」
『……ありがとうございます。お義父さんも。
……つばささんにもよろしくお伝えください』
「ありがとう。伝えておくよ」
久しぶりに声が聞けた嬉しさよりも、つばさとして彼と話せなかった悔しさよりも、
朝の7時に電話をかけてくる常にない非常識さと元気のなさが気になった。
裏で自分で調べようか。班員に頼もうか。
色々考えながらシャワーを浴び、朝食を取り、出勤の支度をしているとまた古いスマホに電話が掛かってきた。
今度は慎重に発信元を見ると、相手は末妹のあすか。
これはもう電話に出ても大丈夫な相手だ。
「もしもし?」
『びっくりした。お父さんかと思った』
妹にも間違えられ、またも凹む長女のつばさ。
『ごめん。お姉ちゃん。朝の忙しい時に』
ちゃんとお姉ちゃんと言ってくれる妹。
沈んでいた気持ちが少し軽くなった。
「夜勤明け?」
『ううん。今日は休み』
わざわざ電話を掛けてきた理由はなんだろう。
『関口看護師の勤務先がわかったから、小平さんと会って教えておいた』
彼女から諸々話や情報を受け取った。
「ありがとう。彼女なにか他に言ってた?」
情報提供や協力を妹に求めたかもしれない。少し不安だった。
『……うちに某国会議員の先生が極秘入院したの。その情報が欲しいって。
ちょっと難しいから牽制してる』
「了解。無理だけはしないでね」
『うん。じゃあお姉ちゃん、頑張ってね!』
「ありがとう。あすかも仕事頑張って」
電話を切ると待っていたかのように、今度は今のスマホが鳴った。
相手は与晴。なんだろうと思ったが電話に出た。
「もしもし」
『おはようございます。先輩。体調どうですか? 仕事行けますか?』
そういえば、昨日の居酒屋以降の記憶が無い。
思い出そうとして無言になったせいか、相棒が慌て出す。
『先輩!? 大丈夫ですか!?』
「大丈夫! 声が大きい。今出るから!」
つばさはジャケットを掴むと、玄関へ向かった。
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