(01)不安と希望と

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 写真を手に取ってじっくり確認する。  そこに写っているのは私服姿の和義。 唯梅と腕を組んで歩いている。  はっきりくっきり撮れている彼の顔は、唯梅に向かって微笑んでいる。  もしかすると謹慎処分とは嘘だったのか?  実は警護の仕事に専念させられただけなのか?  まさか、やっぱり、唯梅と…… 「……これはどこで」  声が震えている。深呼吸して感情を押し殺して言い直す。 「どこで撮られた写真ですか?」  ……ホテルの前ではないことを願った。 「青山のフレンチレストランの前です」  一瞬安堵しかけた自分を、刑事の自分が叱る。  昼間にホテルで盛り上がる輩を何度も逮捕してきただろう。    気を抜いてはダメだ。 「……この後は?」  声は震えていない。感情も篭っていない。大丈夫。 「分かれるのを渋る彼女をなだめすかして、タクシーに乗せていました」  良かった。一線を超えてはいない。  ほっと胸を撫で下ろしたが、直ぐに思考は嫌な方向に傾いた。    これは池辺が見た日だけのことかもしれない。 別の日にもしかしたら……  やはりつばさの様子が気になったのだろう。池辺が心配そうに声を掛けた。 「……大丈夫ですか?」 「……ごめんなさい。大丈夫です。すみません」  必死に笑顔を作り誤魔化すが喉が酷く乾いている。  コップの水を飲み干した。 「……差し支えなければ、この調査対象者とどういうご関係か、お伺いできますか?」  池辺はつばさをまっすぐ見てそう言った。  つばさは迷った。  『ライバル刑事の調査』で誤魔化しはもう無理だろう。  彼は浮気調査が得意だと言った。 事実を話し、場合によっては本当の浮気調査を進めてもらった方がいいかもしれない。  しかし、真実を話せば関係が崩れるかもしれない。沙代の前例がある。  色々な思考が入り乱れる。  色々経験不足の自分では、受け止めきれない事態が起きているが、誰にも相談はできない。  浮気調査の仕事の経験が多いだろう彼なら、この不安をわかってくれるかもしれない。アドバイスをくれるかもしれない。  個人の自分が勝った。  彼に真実を打ち明けた。
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