21人が本棚に入れています
本棚に追加
「……ありがとうございます。話して下さって」
彼は驚いた様子は見せたが、いたって普通に仕事の話を続けた。
「調査継続は如何しましょう?」
「お願いできますか?」
「かしこまりました。『親戚のお嬢さんの婚約者の素行調査』の建前でお受けいたします。『もし』ですが、『もし』彼の不貞の証拠をつかんだら、即報告でよろしいですか?」
「……はい。お願いします」
彼は次いで、刑事さんに言うことでは無いとわかってると前置きした上で言った。
「……今後、元の姿に戻れても、彼氏さんのところに一人で行ったら絶対にダメです。
これだけは必ず約束して貰えますか?」
刑事としては当然わかっている。しかし、岩井つばさとしては……
以前相棒と同期に引き止められたことをふと思い出した。心を乱してはいけない。
気を引き締めた。
「……はい」
「では、何かご不明な点や、不安なことはありますか?」
大ありだった。
まずは自分のお財布の問題。調査費は決して安いものでは無い。これは絶対に経費で落とせない。否、バレたらタダでは済まないヤバい調査だ。
「僕としては小野さんと良いお付き合いをさせてもらいたいですし、弊社としてもお付き合いはメリットがありますので、社長に掛け合うつもりです。例えば…… これくらいならいかがでしょう?」
手際よく計算すると金額を提示する。
「……あ、それなら大丈夫そうです」
思いのほか下がった金額で驚いた。
「かしこまりました」
次の不安は、全容が分からない自分の件に彼を巻き込むこと。
「小野さんを放ってはおけません。手助けさせて欲しいです」
ありがたい申し出だったが、まだ不安はある。
「僕と会社のことは、あまり気にしないでください。こちらもプロですから」
可愛らしい雰囲気と見た目の子だが、肝が座っているとつばさは感じた。
そして、最後の不安を吐き出した。
今までこういう経験が全くなく、漠然とした恐怖と不安があると正直に打ち明けた。
何も言わず、聞かず、つばさの話を真剣に聞いてくれた彼は、つばさにアドバイスをくれた。
「もしお相手が大変な時に浮気するような人間だったら、結婚後もダメですよ。出張中に浮気、妊娠出産期間に浮気、育児中に浮気…… 事ある毎に浮気するクズ間違いなしですよ。
今回の調査でもしわかったら、ショックかもしれませんが、高い福袋買う前にあらかじめ中身がぜーんぶわかって、無駄な買い物しなくて済んだ!ラッキー!っていう感じでいてください」
「ありがとうございます……」
「お相手の方について追加で伺ってもよろしいですか?」
調査のためと思ったつばさは質疑応答に応じたが、
聞き上手で反応が良い池辺のせいか、二人の会話はなんだか女子会のような雰囲気になっていた。
「羨ましい。それ言われてみたい!」
「えー。それ許しちゃうタイプなんですね!?」
「あー、そのシチュ憧れます!」
彼とのおしゃべりでストレス発散できたつばさだったが、彼を見て思っていた。
……どうせ男になるのなら、こういう可愛らしいタイプの男が良かったと。
最初のコメントを投稿しよう!