(02)へるまふろでとす

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 翌日の朝、つばさは鑑識にいた。 「……へるまふろでとす」  法医学の男性医師はご遺体確認後にそう呟いた。  聞き慣れない謎の言葉。 「……なんですか?」  澤田も聞き取れず理解出来なかったらしい。つばさは医師の話に耳をそばだてる。 「……ヘルマプロディートス。ギリシャ神話を思い出しましてね。両性具有、雌雄同体の神」  つばさは後で調べようと、メモを残した。  医師でも、見た目での性別判断は不可能だった。 「首の痕は、死亡後に付けられた可能性も完全否定できません」  そして死因も断定は無理なようだ。 「腹部の開腹縫合は死亡後にやられてますね。これが死因ではなさそうです。 臓器目当てのようにも、何かしら好奇心でやったようにも…… いずれにせよやはり目視だけでは厳しいですね」 「分かりました。解剖の許可を署長にとります」  すぐそう言った澤田に医師は囁くように聞く。 「……ご遺体は身元不明ですか?」  身元不明の場合、死因判定での解剖は遺族の許可は不要。  つばさが質問に答えた。 「……今日か明日にはなにか手掛かりは出てくると思います」  今朝から発見場所の周囲をローラー掛けている。 「そうですか、ご苦労さまです。ではまた……」  医師は帰っていった。  つばさも本業に戻ることにした。 「解剖の許可の件、よろしくお願いします」 「任せといて。今からローラー応援行く?」 「いいえ、若い子に任せました」  西谷と与晴の同期コンビが行っている。つばさは今から茂山と打ち合わせだ。 「佐藤くんあの後大丈夫だった?」 「はい。腹減ったっていうから、一緒にラーメン食べに行ったんですけど、 替え玉と餃子食べましたよ」  彼の成長が嬉しくて、彼に食べさせたのはつばさ自身だった。 「お! 食べられるようになったの。だいぶ進歩したんだね。 ……岩井ちゃんに見せたかったなぁ」  岩井はちゃんと見てますよ、とは口が裂けても言えないつばさだった。
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