(03)菫

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 夕方五時。 人がいなくなった会議室で、つばさは電話を掛けていた。 「……あー、そうですか。分かりました。 お忙しいところありがとうございます。失礼いたします」  小平に電話が全く繋がらず、彼女が勤務する出版社に掛けていた。 「はぁ……」  そこへ相棒がコーヒーを持ってやってきた。 「どうですか?」 「先週から出張中だって。戻りは本人次第。 やっぱり粘って本人に直接繋がるまで掛けるしかないわ」  既に五回、時間を空けて掛けてみていたが繋がらず。 留守番も入れられない。 「引き続き、お手数ですがお願いします。コーヒーどうぞ」 「ありがとう」  電話だけが仕事ではない。  今、与晴に遺体発見現場付近の防犯カメラの情報を洗い出しさせている。  自分は外に出ているメンバーから送られてくる情報の整理をして、三宅へ報告の準備。  午後六時、与晴が仕事の手を止めた。 「先輩、報告いいですか?」  つばさも手を止めて、部下の話に目と耳を向ける。 「お願いします」  彼はノートパソコンをつばさに向けて、報告を始めた。 「遺体発見現場から半径一キロ、半径三キロの防カメの全情報がこれです」  一覧表とマッピングされている。 与晴の仕事を労った。 「ありがとう。わかりやすい。でも、量がまだ結構あるね」 「はい。ここから、遺体遺棄に車を使ったと考えるので、車輌不可の細い道に面して設置してあるものを除外するとこうなります」  かなり減った。 「わかった。そこから今日中に問い合わせ出せるところは手分けして出そう」 「了解です。あ、先輩、肝心の河川なんですが、水害監視用の画角が広いカメラ以外設置されていませんが、どうしましょう」 「一応何か写ってないか調べよう。 開示を求めて」 「わかりました」  机に伏せて置いたつばさのスマホのバイブが鳴った。 「来ましたか?」  つばさは表示された相手の名前を見て何度目か分からないため息をついた。 「違った。奈々ちゃん。 もしもし、お疲れ様。うん。そっか。え? ちょっと待って……」  班員からの問い合わせ対応もつばさの役目だった。
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