(03)菫

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 夜八時、会議室でつばさは腕を組み天を仰いでいた。  未だに小平と連絡がつかない。  不安になってきていた。  まさか、関口と接触したせいで彼に捕らわれていやしないだろうか?  まさか、小平があの仏に手を掛けて逃亡しているのか?  『刑事ドラマの見過ぎ』と言われてもしょうがない妄想に囚われかけていた。  しかしそれを振り切って電話を掛け直す。 「出てよ小平さん……」  やはり出ない。  隣で作業していた相棒が立ち上がった。 「先輩、食料買い出しにそこのコンビニまで少し出て来てもいいですか?」  その時つばさは初めて空腹を覚えた。 苛立ちや不安はエネルギー不足もあるだろう。 「ありがとう。お願い」  与晴が部屋を出て間もなく、待ちに待った電話が来た。  すぐに電話に出る。 「はい。小野です」  しかし平静を装った。 『すみません。お電話何度もいただいたようで……』  この時点でこっちに何かあったんだろうと彼女は察しているだろう。 「すみません。お忙しいところ。急ですみませんが、明日か明後日お会いできますか?」  本当に会いたい訳では無い。彼女の言動を探る為だ。 『すみません。今、東京にいなくて……』  高飛び?と一瞬過ったが冷静に確認をする。 「……今はどちらに?」 『岩手です』 「……いつからそちらに?」 『先週からです』  会社の人と同じ情報。 「そうなんですか、お忙しいですね」 『帰京は明後日なので、それ以降…… あ、すみません、今すぐスケジュール確認ができないので、今日中に候補日を確認してメールで送りますね』 「分かりました。お手数ですがよろしくお願いします」  彼女に逃亡の気配は無い。よって限りなくシロに近い。  話題を変えた。 「……そういえば、関口看護師とはもう接触しましたか?」  これが本題だ。一番聞きたいこと。 『いえまだです。来週、勤務先へ突撃を予定しています』  やる気満々の声音。彼女はシロだ。  慎重な姿勢は崩さず話を続ける。 「……すみませんが、関口に近づくのはしばらく控えてもらえますか? 小平さんの安全のためにも」  彼女は承諾したが、何も聞かずに引き下がりはしなかった。 『……何が起きているのか、お会いする際に教えてもらえれば、ご指示通り彼と接触はしません』 「……分かりました。可能な範囲でお教えしますので、絶対に接触はしないでください」  少し危機感を煽ると、小平は納得したらしい。 『……分かりました。では今夜中にまたスケジュール確認してメールしますね』 「よろしくお願いします」  電話を切った。  緊張が解けて、つばさは机に突っ伏した。そこへ与晴が帰ってきた。 「大丈夫ですか!?」  その声と駆け寄ってきた彼に驚いたつばさは顔を上げた。 「声が大きい! なんでもない」 「……すみません」 「ごめん、買い出しありがとう」  乱れた前髪を適当に直すと、すぐさま与晴に手直しされた。 どうやらお気に召さなかったらしい。 「電話繋がったよ、小平さんと」 「そうですか! 良かった……」 「晩御飯にしよ」 「はい」  つばさは食べながら相棒に仔細を話した。
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