(03)菫

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 遺棄現場で知り合った男性と飲んで食べながら、有力情報と追加証拠を得た二人は、寮に引き上げた。  車内で仕事の話をし、着いた後も与晴の部屋で仕事をしていた。  深夜一時、つばさはキリをつけた。 「よし! これくらいにして今日はもうおしまい!」 「お疲れ様でした」  朝型人間のつばさはそろそろ眠気に負けそうだが、夜型人間の相棒は余裕。  欠伸を噛み殺しながら、つばさは彼に相談した。 「この件落ち着いたら、役所に神谷さんのこと連絡しようと思うけど、どう思う?」  『おとうさん』と呼ばれるのは会えてない息子たちを思い出して嫌だと言った男性は、 氏名を教えてくれ、二人に有力な情報をくれていた。その礼を兼ねて。 「生活保護申請に繋げるんですか?」 「うん。あと息子さんたちにも、会えるようになれば良いなって」 「……優しいですね」  なんだか遠い目をしている相棒。 褒められてるのか呆れられているのか分からなかった。 「良いことだと思います。でも……」 「……なに?」  与晴はつばさの目を真っ直ぐに見て言った。 「……人の心配より、もっと自分の事を優先してください」  茂山にも同じようなことを言われた。 逃げている、後回しにしている、と捉えられても否定出来ない自分がいる。  誤魔化すように、相棒の頭に手を置いた。 「君もだぞ、与晴くん」  彼は固まった。 「オレの面倒ばかり見てないで、休みの日はもっと遊びなさい? あなた若いんだから」  頭をポンポンとして、大欠伸した後、 つばさは立ち上がった。 「あー、眠…… おやすみー」  ふらふらと玄関に向かうつばさ。 我に返った与晴は、その背に向かって返事をした。 「おやすみなさい……」
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