(03)菫

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 数日後、つばさは相棒と二人でLOTUSへ来ていた。  防犯カメラのデータ提供要請とその中身の確認、現場近くの聞き込み、他の仕事の手伝い……  と走り回っており、その合間を縫っての訪問だった。  今日はLOTUS側から報告と相談があるらしく呼び出されていた。  会議室に通されると、既に新居と菊池が待っていた。  二人で飲み物を出してくれ、しばらく談笑した後、本題に入った。 「……(すみれ)?」  書類の頭に書かれているのは、花の名前。聞くと、プロジェクトのコードネームらしい。 「由来は?」 「シェイクスピアが書いた『十二夜』のヒロインの名前」  初めて聞いた作品だ。  そもそも、ロミオとジュリエットくらいしか知らないのだが…… 「男装して双子の兄のフリする子が、ヴァイオラっていうの。だから、菫」 「すご…… お菊が考えたの?」  文化的で高尚なネーミングセンス。 「社長が最初にこの案を出して、わたしが他の意味も持たせて決定した、我々の自信作です!」 「他の意味って?」 「話が長くなるので、そこは割愛させてもらいまーす」  趣味繋がりだろうな、と直感したつばさは深追いしなかった。  ただ、男のつばさで『雄翼』と命名した父と、つばさと雄翼でコードネームを『WING』とした三宅の元コンビの二人のセンスのなさとは次元が全然違うと思っていた。  新居から報告があった。 「一通りサプリメントに含まれていた薬物の分析が終わったので、 解毒方法の模索のため再現実験に着手しています」 「……再現実験、とは?」  何となく嫌な予感がしたつばさ。 「動物実験です」  隣の相棒も目を見張った。  文系のつばさと与晴には馴染みが無い。 「ねずみとうさぎは再現出来ました。次に、解毒だけで元に戻るかを確かめます」  解毒しても、元の自分に戻れないかもしれない恐れがある、ということだ。  でも何もしないよりはマシだ。 「それより高等な哺乳類での検証ですが……」  突然つばさのスマホに電話が掛かって来た。番号は公衆電話。  神谷に自分の電話番号を教えたから、きっと彼からだ。 「すみません、少し外します……」  与晴を残し、LOTUSの二人に断りを入れ、会議室の外で電話に出た。
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