(03)菫

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「もしもし、小野です」 『おう。元気かい?小野君』  電話をしてくれたことが素直に嬉しいつばさは明るい声で返した。 「神谷さん! 先日は本当にありがとうございました!」  彼は犯人らしき人物、男の姿を目撃していた。  恐らく遺体を引き摺る音、独り言で『次こそ』と繰り返す男の声を聞いていた。 「お電話ありがとうございます! どうされました?」  他になにか思い出したか、なにか新たに見つけたか…… 『……昨日の夜、この辺じゃ顔を見ない若い男が死体発見現場に来たんだよ』  つばさは一言一句逃すまいと全神経を集中させた。 『何か探してたみてぇだ。俺の友達が何してんだって声をかけたら、走って逃げちまった』  遺体遺棄の犯人かもしれない。関口が自分の免許証を拾いに来たのかもしれない。  つばさの心拍数が上がった。 『で、そいつ、手袋落としていったんだ。それを拾っておいた。こんな時期に手袋って怪しいしなと思ってな』  つばさは食い気味に言った。 「神谷さん、今からその手袋、受取に行ってもいいですか?」 『いいよ。何時くらいに来る?』  今は午後三時。 「五時前には着けるようにします。あ! あの! 待ってる間、必ず人の目がちゃんとあるところに、男に声を掛けたというお友達と一緒にいてもらえます?」 『なんでだ?』 「神谷さんの身の安全のためです。もしその男が殺人犯だったら危険なんです。どうかお願いします」  神妙な声で返事が来た。 『分かった。その友達と一緒に近くの喫茶店にいるわ』 「わかりました。直ぐに向かいます!」  電話を切ると急いで会議室に戻った。
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