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男子寮三羽烏は、茂山の運転で寮に帰った。
後部座席でつばさと与晴は菊池から託された書類のうち、『重要』と書かれた怪しげな封筒の中身を確認していた。
中に入っていたのは、付箋だらけの公演パンフレット二冊と、ブルーレイ。写真のアルバム。そして『小野くんへ』と書かれた封筒に入った手紙。
早速手紙から読む。
『小野くんへ
歌舞伎俳優の永之助さんの奥様はタカラヅカ元トップ娘役、蒼月えりなさんです。同封したパンフレット&円盤の公演ヒロインです。永之助さんは刑事ドラマ系はこれくらいしか観たことがないようです。
彼の知識量の想定、勉強、及び、奥様との会話のネタ集め、ということでぜひ見てください。
永之助さんの先日の自主公演のパンフレットも同梱しときます。
一式、今度会う時に返却お願いします。
追伸①
佐藤くん、原作読んだことあるかな?
是非感想を聞きたいです!
追伸②
アルバムは公演時の舞台写真です。可愛いので見てね!』
ここから推測できるのは、そのうち歌舞伎俳優の永之助氏と顔合わせがあるであろう、ということだ。
パンフレット二冊に付けられた付箋には文字がびっしり。彼女が高校時代からヅカオタであることは知っていたが、さすがに狂気を感じ、数ページ読むでもなくめくった後すぐに与晴に渡し、歌舞伎の薄いパンフレットを開く。
黒紋付のプロフ写真の下にある彼の挨拶文を読み、パラパラとめくったが、演目の説明や歴史的背景などの字ばっかり…… 車酔いを防ぐためにも読まずにすぐ閉じた。
そして今度はアルバムをめくる。
スーツ、ワンピース、トレーナーにジーンズ、警察の制服……
チャイナドレス、ウエディングドレス、カラードレス……
1つの公演でこんなに着替えるのかという驚きと共に、見た記憶がある写真があった。
「あ……」
現状無駄になってしまっている、菊池からもらったウエディングドレスアドバイス資料。
あれと同じものがあった。ここから取ったのだ。
ふと横を見ると相棒はタカラヅカの方のパンフレットを熱心に読んでいる。
「面白いこと書いてある?」
「はい。原作者の先生のコメントと、サスペンス小説の歴史が書いてあります。マニアックで面白いです」
読み終わると……
「みんなで飯食いながら、このブルーレイ、4階で観ませんか?」
茂山がすぐ賛同した。
「お。いいね! 久しぶりの上映会」
「え。あそこで観られるんだ。男子寮のみんなでなに見たの?」
途端に与晴に話を逸らされた。
「茂さん、夕飯どうします?」
茂山まで話を逸らした。
「参加人数わからんから、集まってからネットオーダーしようぜ」
つばさはなんとなく彼らが何を見たのかを察した。
若い男だらけの寮だ。
気を遣ってくれてるのだと、つばさは突っ込んで聞きはしなかった。
「じゃ、与よ、寮のみんなにお誘い送っといて」
「了解です」
集まったのは全寮の3分の1くらいだったが、上映会は盛況に終わった。
刑事ドラマ好きなつばさにはたいへん面白く、
原作読者の与晴も満足し、美しい女性が目の保養となり、つかの間の息抜きを楽しんだ。
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