(04)この道は茨道?

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 茂山と与晴が食い気味に前のめりに挨拶を返しながら、 つばさを和義からそっと遠ざけた。 「おはようございます! どうされました!?」 「お久しぶりです! どうしてここに!?」  その隙にそっと吉田がつばさに寄り添い耳打ちした。 「……冷静に。深呼吸」  無理だった。  久しぶりに会えた嬉しさから来る高揚感。  相変わらず正体に気付いてもらえない悲しさ。  浮気をしてるのではないかという猜疑心。  最近連絡が来なかったことに対する寂しさ。  感情がぐっちゃぐちゃだった。 「……小野雄翼を演じ続けなさい」  吉田に命じられたつばさ、オレは小野雄翼。刑事だ。  そう数回心の中で唱え、乱れた感情に釘を刺した。  しかし、 「岩井警視正に指示されて参上しました」  笑顔で彼が話したその内容につばさは抑えきれない猛烈な怒りを覚えた。  彼の謹慎が解けたとは彼からも父からも聞いてはいない。 父から彼が今日ここに来るなどと聞いていない。  目線に入った相棒を睨みつけてしまった。  一瞬怯んだ彼だったが、彼は首を振り強い目で訴えてきた。  『俺は全く聞いていません! 知りませんでした!』と。  吉田が突然声を上げた。 「あの!すみませんが私と小野は失礼させてもらいます。急用が発生しましたので!」  彼女がつばさの腕を掴むのと同時に、茂山は和義の腕を掴み与晴は署長室の扉を開いた。 「さあ、署長の助太刀を何卒お願いします。宮田警視正殿!」 「是非お願いします!」  吉田は腕を掴んだままつばさを屋上まで連行し、彼女をベンチに座らせると、入ってきた扉に鍵をかけ、誰も来れないようにしてつばさの隣に腰掛けた。 「……話せるなら話してごらん。聞いてあげるから。ね?」  つばさはゆっくりひとつずつ彼女に話し始めた。  和義が仕事に託けて浮気をしてるかもしれないこと。 不安になって、私費で内密に彼の身辺調査を興信所に任せていること。  最後は泣きながら話していた。  つばさの恋愛経験値を大まかに知っている吉田は口にこそ出さなかったが、内心思っていた。  茂山がやたら宮田を敵視しているのは、彼の本性が見えているのではないか?  もしくは女には分からない男の勘であの男は危険だと思っているのかもしれない。  同期、未だ未練がある元彼女の親友、今は友達のつばさ。彼女を守るため、余計に気が立っているのかもしれない。  しくしく泣き続けるつばさを宥めるため、吉田は彼女をハグした。  しかし、つばさは慌てて身体を離した。 「ダメです。オレと不倫になります」  吉田は吹き出した。 「ごめん、わたし年下には興味無いんだわ」 「……マジですか」  一瞬真顔になったつばさの隙を突き、吉田はまた抱き寄せた。 「……無理して男のフリするんじゃないの」  また泣き出すつばさ。  吉田に背中をさすられながら長い間泣いていた。  しかし、久しぶりに泣いたことで溜まりに溜まったストレスを押し流すことになったようだ。  涙と嗚咽が収まる頃にはだいぶ気持ちはスッキリしていた。 「顔洗って、身なり整えてから来なさい」  吉田はそう言ってつばさを残して去った。
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