(04)この道は茨道?

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 話を終えるとすぐ井上から声を掛けられた。 「雄翼、昼ごはん行こうか」 「はい」  二人で署の近くの定食屋へ行った。どうやら二人が最後の客らしい。  店主は二人に料理を出し終えると、客席の隅に座りテレビのバラエティを見はじめた。 「雄翼に話しておきたいことがある」 「なんでしょう?」  井上はよくみんなが知らないことを知っている。 今日は何を教えてくれるのだろうと、つばさは食べながら耳をすませた。 「署長、雄翼に甘いし優しいよな?」 「……そうですね」  よく声を掛けられる。  手柄をあげると必ず褒めてくれる。  術科訓練で剣道が苦手なのを責めずに庇ってくれた。  さっきも顔を見た途端態度が変わったし、突然飲みに誘われた。 「仲が良かった頃の小埜政志君の面影を、 無自覚にお前さんに重ね合わせてるのが原因かもしれない……」 「……はい?」  何を言ってるのか。 「昔はライバルって言っても、すごく仲が良かったんだよ。小埜君と高階君」  つばさはちょうど口に入れた白米を危うく吹き出しそうになったが堪えた。  急いで咀嚼し終え聞く。 「冗談ですよね?」  警察官になった時から、高階には気をつけろと注意され、嫌味を散々父から聞かされ続けた。  嘘に決まっている。 「……いいや。本当に仲が良かったんだよ。キャリアとノンキャリの身分差なんか関係なく。 いつも一緒にいて、二人でよく無駄話してて上司に怒られてた。まあ、そんなの知ってるのはもう俺くらいか」  遠い目をしながら、味噌汁を啜る井上。  そんな様子をちらちらを見ながらつばさは焼き魚を平らげたが、味わうことは出来なかった。 「……それが事実だとして、二人が仲違いしたのは 岩井恭子元警視を取り合ったからですよね?」  そう周りから聞いていた。 「それは噂だ。違うと思う。 二人の結婚が決まった時も変わらず仲は良かったし、 高階君が恭子君に気があるようには全く見えなかった」  原因が他にある?  なぜ二人は啀み合うようになったのか?  なぜ高階所長は自分にまで憎しみを向けたのか?  かなり気になった。  しかし、同期と後輩に言われた言葉が、好奇心にブレーキをかけさせた。 『今は自分のことだけ考えろ』 『人の心配より、もっと自分の事を優先してください』 「……雄翼」 「あ、はい。なんですか?」 「手が止まってる。食べなさい」  見れば井上はほぼ食べ終わっている。あわてて、残ったおかずと味噌汁に手をつける。 「……惑わせる話をして済まなかった。でも、真実は二人にしかわからないから、班長の言う通り、引き続き署長とは距離を取るように気を付けなさい」 「……はい」  署長と父のことは一旦忘れろ。つばさはそう自分に言い聞かせた。
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