(04)この道は茨道?

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 三日後の夜、つばさは署の男子トイレで嘔吐していた。  その背を心配そうに相棒が黙って摩る。  こんな姿を彼に見られたくない。  一人になりたい。 「……仕事に戻りなさい。すぐ行くから」  しかし、与晴は離れてくれなかった。 「……先輩を一人には出来ません」  その声が震えている。見られたくないどころでは無い。この姿を彼に見せてはいけない。 「わかった…… 行こう」  しかし言ったそばから、また吐いた。 もうとっくに胃液しか出てこないのに。 「仕事はもう無理です。仮眠室で寝ててください」  つばさは自分自身の弱さに苛立ちを覚えつつ、彼の言うことは尤もだと受け入れることにした。 「……わかった。今日は(ここ)に泊まる。 与は仕事に戻ってキリがついたらちゃんと寮に帰って寝なさい」  しかし彼から返事がない。かなり動揺しているのが目に見えて分かる。  笑って与晴の頭をぐしゃぐしゃっとした。 「……オレは大丈夫だ。そんな顔するな」  彼の目に薄らと涙が浮かんでいる。  不味い。  しかし彼は自ら踏みとどまった。 「……分かりました。戻ります。ちゃんと寝てくださいね」  彼と別れ更衣室で着替える最中、つばさはまたまた嘔吐(えず)いた。  未だに貧相な自分の身体を見たせいかもしれない。  しかしもう何も出なかった。  誰もいない仮眠室の布団に横になると、すぐ睡魔に襲われた。精神同様体力も消耗していたらしい。抗いはしなかった。  ノックの音で目が覚めた。どれくらい寝たのだろう。 部屋の時計を見ると、22時を過ぎていた。 「……与?」  身を起こし見てみれば、部屋に入って来たのは茂山だった。 彼はつばさの布団の横に正座した。 「本当に申し訳ありませんでした……」  彼は手を着き頭を下げた。 「……茂のせいじゃない。与晴がなんか言った?」 「……思いっきり怒鳴られました」  彼が怒鳴ることは滅多にない。やはり心が乱れている。自分のせいで。 「……ごめん、わたしから謝っておく。与には後で注意しとく」  もしかするとケアも必要かもしれない。  つばさは話題を変えた。 「……今、どんな状況?」 「……班長と姐さんが署長に報告した」 「……オレのことは?」 「……言うわけない。安心して。 あ、署長から伝言。無理せずゆっくり休めって」  井上の話を思い出したが、まだ信じられない。 「……やっぱりあの人、オレの正体怪しんでカマかけてるんじゃないのかな?」 「そうは見えなかったけどね、本当に心配そうにしてたから。 ……まぁ、不気味だわね」 「……そう。気持ち悪い」  二人で笑った。 「……じゃ、俺仕事に戻るから、寝てなね。 キリついたら与晴連れて帰るわ」 「ありがとう。よろしく」 「じゃ、お休み」  来た時よりも表情が明るくなった同期を見送ると、つばさは再び横になり、 数時間前のことを思い起こし始めた。
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