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つばさは突然覚醒した。
時計を見れば朝の6時。いつの間にか熟睡していたらしい。
仮眠室に自分以外に誰か寝ている事に気付いた。
だいぶ離れたところで与晴が、その向こう隣で茂山が寝ている。
どうやら寮に帰らなかったようだ。
隣同士で寝ているところを見ると、仲直りはしたと見える。
起き上がり、相棒の横に座って寝顔を眺めたが、こんなにじっくり見たことは無かったかもしれないとふと思った。
寝ていても整った精悍な顔立ち。
「……昨日はごめんね」
自分の体調不良でかなり動揺させてしまった彼の頭をそっと撫でた。
彼の目がうっすら開いた。起こしてしまったのだろうか。
「……ごめん」
しかし、彼は夢と現実の狭間に居た。
「……にいちゃん?」
兄と間違えている。
しかし、否定はダメだ。そう判断したつばさは何も言わずただ彼に微笑み掛けた。
すると彼は今までに見たことがないような笑みをうかべた。
子どものような無垢なかわいい笑顔だった。
つばさの頬がさらに緩んだ。
「にいちゃんだ……」
彼は手を伸ばしてきた。
しかしつばさはその手を取りはしなかった。
目が覚めた時に悲しませたくなかった。
空を掴んだ手。しかし彼は満足そうな笑みを浮かべたあと眠りに戻った。
つばさは密かに決めた。
この男の姿は自分には地獄だが、彼にとっては癒し。
一生懸命自分に付いてきて、助けてくれる彼のためにも、男の姿で彼の相棒でいる限りは彼に弱々しい姿は見せてはいけない。
強い上司、頼れる相棒、そしてかっこいい兄であり続けなくてはならない。
これは苦でも負担でもない。自分の救いにもなる。
男の小野雄翼を演じることで、きつい現実から逃げられる、忘れられる。
「……与、ありがとね」
頭をまた撫でると、つばさは着替えと身支度のために仮眠室を出た。
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