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三宅の出勤後、つばさはすぐに彼と澤田のことについて話し合った。
結果的に、澤田に話して仲間になって貰うことになった。
彼を人気のない、盗聴や盗み聞きの心配がない屋上へ呼び出した。
待つ間、未だ完全には拭いきれない不安を元相棒に感じ取られ諭された。
「大丈夫だ。あいつは信用できる。口が堅い」
「……はい」
「これまでも何度も助けてくれたんだ。今回だって大丈夫」
同期との信頼関係が強い。自分も元に戻れたら、もっと茂山や沙代、他の同期と良好な関係を……
「……多分な」
最近は緊張が漂う場面が多く真面目で冷静な態度ばかりだった班長が久しぶりにふざけた。
つばさは即突っ込んだ。
「そういうこと言うから、不安になるんですよ!?」
「怒るな、怒るな。悪かった! あ、来た」
見てみれば、ふらふらしながら澤田がやってきた。
「おっはよー……」
「おはよう。おつかれ。徹夜?」
顔に疲れが出ている。
「うーん。さっきちょっと寝たから厳密に言うと、徹夜じゃないねぇ」
「……今修羅場?」
鑑識課の管理職にある澤田。彼が徹夜するレベルは相当なことを意味する。
「……ちょうど普段よりマンパワーが足りてないところに小野君に頼まれたアレの結果報告したせいで、署長から仏さんの解剖大急ぎって用意しろ!って言われてさぁ…… 龍ちゃんのせいだよ。あ、でも一番悪いのは、仕事の休憩中に仕事した俺のせいか!」
笑い出した澤田に笑いながらツッコミを入れる三宅と、結局自分のせいじゃないかと思って笑えないつばさ。
「で、二人して俺に何の用事?」
「……あ。うん。ちょっと大事な話がある。座ってくれ」
三宅は自販機で缶コーヒーを買うと彼に渡して話し始めた。
「……うん。わかった。血液と組織片でいいのね?
で、なんでそんなの要るの?」
彼はコーヒーを飲みながら、三宅の隣りに座るつばさの顔時々を見ながら話を聞いていたが、
「は!?」
突然、つばさの顔を二度見した。
「……ごめん、今まで全然気づかんかったわ。
確かに言われてみればそうだわ、岩井ちゃんだわ」
「……すみません。騙した形になって」
「いや、謝らないでよ。岩井ちゃんが無事…… とも言い切れないけど、生きてるし元気だから、
ほんとよかった。心配だったから……」
何度も小野雄翼として聞いた。彼が岩井つばさを心配するのを。本当にありがたいことだった。
「ありがとうございます。お気遣いいただいて」
「あー。やっぱり岩井ちゃんだわ。
男の子の振りしてると、気付かんもんだねぇ」
気が軽くなったのか、澤田は仕事に関係ない話を始めた。
「岩井ちゃんと仲良かったせいか、『佐藤さんって彼女いますか?』って聞きにくる子結構いたんだよ」
それは以前何度か聞いた。なぜペアの自分に聞きに来ないのかと不思議に思って澤田と笑ったものだ。
「でも最近、『小野さんは?』って聞きにくる子が出てきたんだよ」
それは初耳。吉田と西谷の不安が当たったようだ。
「えー」
「おー。雄翼モテるな。どうする?」
「どうする?」
おじさん二人につばさは真面目に答えた。
「オレ、女の子は対象外ですし。彼氏いますし」
「え。あ、男の子が好きなの。居るの彼氏……」
澤田が真顔でそう言った後、大慌てて訂正した。
「あー。ごめん! そうだ、当たり前だ。
それにいまの全部不適切な発言だ!
ごめんなさい!」
つばさは何とも思っていなかったので、笑って受け流した。
「え? どこが?」
ポカンとしている三宅。彼の態度に引く澤田。
「さすがセパ両リーグ制覇ギリギリ男……」
「澤田さん、是非このおじさんにご指導お願いします」
「了解。龍ちゃん、まずね……」
仲のいいおじさん二人をつばさは笑って眺めていた。
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