(05)焦りは禁物

5/10
前へ
/332ページ
次へ
 次の日は朝から動き回る。 レンタカーの遺留物の確認のため、鑑識チームと現地集合。  つばさは相手のリーダーが視界に入るなり相棒の後ろに隠れようとした。 彼は笑いながらそれを止めた。 「意味無いですって。お知り合いですか?」 「……元上司」  前部署である鑑識時代の上司。  彼はつばさの異動が決まり刑事になれるとわかった時すごく喜んでくれた。 『岩井つばさ』を覚えているはずだ。  もしかすると、実家の空き巣の件も担当したかもしれない。  懐かしさより怖さが先立ってしまった。 「ではできるだけ俺が対応しますね」 「ごめん。お願い」 「先輩は上司としてどっしりと構えててください」 「わかった」  つばさの心配は杞憂に終わったが、しっかり収穫もあった。  幸か不幸か清掃が細かく行き届いておらず、毛髪や指紋の入手ができたのだった。 「検査結果は岩井警視正経由で貰えるようにしました」 「ありがとう。引き続き頼む」 「証拠として使えるといいですが」 「願うしかないね……」  その後二人はすぐ司法解剖を行う病院へ向かった。まだ始めたばかりだろう。その結果をすぐに聞きたかった。  しかし向かう途中の車内、二人は揉めていた。 「あなたこないだ検視で目眩起こしたでしょう。話聞くだけだから、ついて来なくていい」 「大丈夫です。先輩こそ車で待っててください。俺が一人で行きます」 「何がどうなってそうなる?」 「先輩、フィジカルもメンタルも本調子じゃないですよね?」  その通りだ。胃の調子が良くないし集中力が欠け気味。  よく見ている部下だ。しかし引き下がれない。 「大丈夫。気合いで乗り切る」  相棒は溜息をついた。 「これだから体育会系は…… 根性論はダメですって」 「あんただって体育会系でしょうが!」 「剣道と柔道は違います!」  ああでもないこうでもない。ああ言えばこう言う。 お互いやりあった末に、痺れを切らしたのか与晴が言い放った。 「もう! 無理しないで大人しく待ってて!」  自分に向けた唐突なタメ口。 「……あ。……すみません」  しまったと言う顔をしながら謝られ、争いは突然止まった。    つばさは嬉しかった。クソ真面目な彼がたまに茂山にタメ口聞いているのを聞いていた。 やっと自分もタメ口聞いてくれる域に達せたのかとなんだか感慨深く思い、頬が緩みかけた。  しかしなんだか悟られたくない。なんだか小っ恥ずかしい。 「もういい。二人で行くよ。 報告と共有が手間だし、このあとも仕事あるし」 「はい、わかりました……」  相棒は大人しく従った。
/332ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加