(05)焦りは禁物

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 病院に到着するとまだ始まっていなかったらしく、立ち会いを打診された。  またも少し揉めたが、二人で見守ることに決めた。  澤田が忠告した。 「二人ともダメだと思ったら無理せずすぐ外に出る。いいね?」 「はい」 「はい」  司法解剖が始まった。医師団に任せ遠巻きに見守る三人。 「死亡原因は、絞殺による窒息死」 「首の絞殺痕以外の外傷、ありません」 「目立った内蔵損傷、見られません」 「爪に、他人のものと思われる皮膚の一部あり」 「内性器見られず。男性と判断」  茂山の推理をつばさは反芻していた。  秋山は関口を薬の実験台に使った。開発途中の薬は彼を中途半端な身体に変えた。  関口は秋山を恨んで揉めた末、秋山が絞め殺した……   突然、澤田に耳打ちされた。 「……小野ちゃん。欲しいのは仏さんの血と爪の間の皮膚片と、他はある?」  予め葵に確認をとり作ってあった一覧を彼に渡した。 「……こちらをお願いできますか?」 「……了解。薬物での殺害の可能性の検査ってことでもらっておくね」 「……ありがとうございます」  二人になった。つばさは与晴に声を掛ける。 「大丈夫?」 「はい」  こうやって刑事は皆耐性を付けてきた。 しかし彼は人よりも長い時間が必要だ。  ふと思い立ち、以前考えたことを初めて彼に話した。 「わたしの件が終わったら、こういうのに立ち会わないで済む部署にしてもらう?」 「えっ?」  明らかに動揺している。彼から視線をずらし話を続けた。 「二課とかどう?」  返事がない。 「向いてそうだけど」  やはり反応がない。  改めて彼に目を向けると、顰めっ面をしていた。 「与、目が怖い」  表情を緩めた彼はようやく口を開いた。 「そうですよね、今のうちから考えないと」  無理に笑顔を作っている。 「でも先輩もどうするか考えないとですよ」  今度はつばさが動揺する番だった。 和義と予定通り結婚できたとして、そこから自分はどうするのか。  相変わらず真剣に考えずのらりくらり逃げている。  顔と態度に出ないように気持ちを抑えた。 「……だね」  突然、つばさのスマホが着信を知らせた。 「……え? LOTUS? ごめん、ちょっと出てくる」 「はい」  つばさが立ち去るのと入れ違いで澤田が戻ってきた。 「ドライアイス、何時間分必要?」  検体の保存用の確認だった。 「念のため3時間分お願いできます?」 「了解。あれお兄ちゃんは? ギブアップ?」  姿が見えないつばさが気になったらしい。 「あ、いえ、さっき電話が掛かってきて」 「そっか。でも佐藤君もだいぶ強くなったねぇ」  最初の頃から知っている彼に感慨深く言われた与晴は恥ずかしげに答えた。 「ありがとうございます。でもまだまだです」 「まあ、急がずに、ね…… じゃあ、もう用意できるから取りに行こっか」 「わかりました」  二人はその場から離れた。
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