(05)焦りは禁物

7/10
前へ
/332ページ
次へ
 つばさは電話に出た。 『お世話になっております。LOTUSの菊池です』 「お世話になります」  今はお互い仕事。そのままの話し方で電話を続けた。 『動物実験で解毒と復帰の確認が出来ました』  つばさの心拍数が上がった。  元の自分に戻れるかもしれない。  真っ先にそう思った。 『もう人体に適用して良いか、一度槇医師を交えて確認と相談させてください。 メールで候補日を連絡させてもらいますが、よろしいですか?』 「はい。お願いいたします。 今日、これから槇医師のところへ訪問予定です。 私からも話しておきますね」 『ありがとうございます。お手数ですがよろしくお願いいたします。 では、失礼いたします』 「失礼します……」  電話を切り、一人考えた。  ちゃんと戻れるのだろうか?  大丈夫なのだろうか?  中途半端な姿になったらどうしようか?  不安と期待が交互に来る。  そこへまた電話が来た。  今度は相棒だ。 「もしもし。……わかった。じゃ、駐車場で」  つばさは電話を切ると、澤田と医師たちに挨拶をして相棒が待つ車へ戻った。  定位置の助手席に、先客のクーラーボックスが居た。  つばさは後部座席に座る。 「ありがとう。もらえたやつってそれ?」 「はい。あまり状態が良くないそうなので、少し多めにもらってます」 「そう…… 了解。ありがとう。じゃ、病院まで運転よろしくお願いします」 「検体渡したら昼飯にします?」  今日も彼に食欲がある。つばさは安堵した。 「そうだね。何食べる?」 「ラー……」  全部言わせる前に止めた。 「却下。一昨日食べたばかりでしょ」 「ちぇっ…… じゃあ…… カツ丼」 「OK」  そこで会話が途切れた。  しばらくして、与晴が口を開いた。 「そういえば、さっきのLOTUSさんからの電話は?」 「あー、それね……」  つばさは言い淀んだが、与晴は大人しく彼女の動きを待った。 「……解毒と原状復帰ができたって。 ……だから、もしかすると、元に戻れるかも?」  与晴の表情が一瞬陰ったが、後部座席のつばさには気づけなかった。 「それは、良かったですね」 「ぬか喜びしたらダメだと思う。 もし実現可能だとしても、色々調整があるし」  今度は『小野雄翼』をどう消すかの問題が出てくる。  しかし、つばさは先のことより目の前を見ていた。 「とにかく葵先生にこれ出して、お昼食べて、小平さんと会って、病院へ戻って、署に寄ってから帰ろう」 「了解です」  今日はまだまだ予定がたくさんあった。
/332ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加