(05)焦りは禁物

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 葵に検体の分析を依頼し、LOTUSの件も話した。 今日中に双方回答をすると言う彼女に預け、 腹ごしらえを済ませると小平に会いに行った。  伊東唯梅の最新情報をもらい、秋山の情報提供を依頼する。  たまに世間話を挟み、対価として出せる情報を彼女に渡す……  そろそろお開きの雰囲気になったが、つばさは与晴に席を外すよう頼んだ。  二人になるとつばさは池辺に以前貰った写真をテーブルに置いた。 「……梅の警護に入っているこの男性は、わたしの婚約者です」  小平は目を見張っただけで何も言わなかった。  つばさは続けた。 「……彼はわたしの現状を知りません。 そして、今、彼の素行調査をこの方に頼んでいます。 あくまでもわたし個人の依頼です」  池辺の名刺を写真の隣に置く。  ジャーナリストと探偵が手を組めば、彼らなりに警察と違う情報が取れるのではないか?  その考えの元で今彼女にこの話をしていた。 「……ちなみに、白黒の結論は?」 「……まだです」  小平は静かに言った。 「……つばささんの為、彼が白であることを影ながら願っています」 「……ありがとう、ございます」 「……しかしもし黒である場合、掴んだ情報使わせていただきますが、よろしいですか?」  それは覚悟の上だった。  そうなったら、彼と彼女への当然の報い。受けてもらう。  これは女としての嫉妬だ。自覚していた。 「もちろんです」  彼女は仕事の話に戻った。 「この方に連絡取ってお会いしてもよろしいですか?」 「はい。ぜひ。こちらからも伝えておきます」  彼女と別れるとつばさは与晴と一緒に葵に会いに病院へ。 「まず、検体の染色体は男性でした」  解剖と染色体で男性と確定。  ……DNAは関口と一致した。やはりあの仏は関口なのか? 「薬物反応があり、つばさちゃんのと類似の薬剤と判断しました。 薬剤の特定、成分分析はやはりうちでは難しい状態です」  茂山の推理が正しいのかもしれない。 「……大丈夫ですか?」  相棒が気遣ってくれたが、今日は吐き気も眩暈もしなかった。 「……ありがとう。大丈夫」  葵はこれが何なのか踏み込んで聞いてはこなかった。 聞かれても答えるつもりはなかったが。 「分析ありがとうございました。ご協力に感謝します」  話を解毒と原状復帰の件へ移す。 葵がLOTUSと確認した内容など諸々説明をしてくれたが、 文系のつばさと与晴は完全には理解ができなかった。  恐る恐る、結論を伺う。 「……それは、適応しても良いということですか?」 「はい。あとは、つばさちゃんの意思次第です」  戻りたい。  真っ先にそれが頭に浮かんだが、心を落ち着かせた。 「……わかりました。少し考えます」  署から寮への帰り道の車の中、助手席で外の景色を眺めるつばさ。 「日が長くなってきたね……」 「そうですね」 「……オレの夏服、買わずに済むのかな」  運転のためまっすぐ前を見る相棒の瞳がかすかに揺れたことに、つばさは気づかなかった。  既にスマホの着信に気を取られていた。    池辺からメッセージだ。小平とのことを連絡しなければと思っていた。 今すぐ会いたいとのこと。  胸騒ぎがする。  少し考えて相棒に声を掛けた。 「……ごめん、途中で降ろしてもらえる?」 「えっ!?」  一瞬脇見をして自分を見た彼を注意する。 「前見て」 「仕事ですか?」 「……プライベート」 「わかりました、細かくは聞きません。 ただもう日暮なので遅くなるなら迎えに来ます。 すぐ終わるなら車で待たせてもらいます」  相変わらず用心棒、番犬を徹底する相棒。 疲れが出てきていた。喧嘩をする気はない。 「……わかった。すぐ終わるから近くで待ってて」 「わかりました」
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