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第七章
朝六時、つばさは鏡の前で盛大な溜息をつき項垂れた。
今朝は久しぶりに髭剃りが必要な朝だった。
今の自分は『男』なのだと思い知らさせる。
トイレと風呂の次に嫌いな作業だった。
シェーバーを手に取り鏡を覗き込み退治するが、
幸い濃くも硬くもない髭は直ぐに剃り終わる。
LOTUSから貰ったメンズ基礎化粧品で肌を整える。
モニターのレポートをあげねばならない。
相棒が書いたのを見せてもらった。
仕事ではわからなかった彼の語彙力と表現力の高さを初めて知り、感心した。
自分も自分なりにできる方法で書かなければ。
ヘアブラシで寝癖を整え、ワックスで整える。
そろそろ髪を切るべきか?とぼんやり考える。
でも、もしも女に戻れるのなら、少しでも長い方がいいかもしれない。
そんなことをダラダラ考えながら、身だしなみを整え終えた。
炊きたてのご飯に卵をかけて、インスタントの味噌汁で朝食。
テレビを付け、天気予報と世間のニュースの確認をしていたが、頭の中はいつしか違うことでいっぱいになっていた。
和義があの女と行ったのは、自分と結納を交わしたホテルに違いない。
なんでよりによってそこで不貞と疑われる行動をとった?
やっぱり実家が太い若い女がいいのか?
仕事にかまけて連絡を怠った自分が悪いのか?
今の自分の状況が実は彼にバレている?
女に無事に戻っても、捨てられる?
そもそも女に戻れるのか?
考えすぎて、箸が止まっていた。
いつしかテレビのニュースは終わり、時計代わりにしている毎朝のドラマが始まっていた。
「やっば!」
大慌てで食事を終えて、皿を洗い、歯を磨く。
今日は電車通勤だ。もう時間が迫っている。
ネクタイは職場で結べばいい。
ジャケットを羽織ると、慌てて部屋を出た。
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