(01)恋の手習い…

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 翌日朝からつばさと与晴は電車でLOTUSへ向かっていた。  今日は解毒についての説明を葵と受けたあと、対価であるドラマ協力の関連で顔合わせ……という予定。 「何時に終わりますかね?」  腕時計を見て与晴が言った。 「そんなに遅くはならないと思うけど、なにか用事?」  絶対に自分を一人残して帰ることはしない。 そうわかっていてもつばさは聞いてみた。 「……ドラマの録画、忘れてしまって」  それは二人とも毎週見ている刑事ドラマだった。 「毎週録画してなかった?」 「先週、緊急ニュースで放送中止になったじゃないですか」 「そういえばそうだった」 「その時予約切っちゃったんですよ。戻すの忘れてて」 「じゃあ録ってあるから、明日休みだし、オレの部屋で一緒に見る?」 「え? いいんですか?」  ナチュラルな誘いに一瞬乗りかけた与晴だったが、はっと気づいて慌てて断った。 「……あ、結構です。懲戒免職は怖いので配信で見ます」  相変わらず律儀で真面目な相棒をつばさは笑った。 「お昼ご飯食べながらドラマ見るくらいいいでしょうが、クソ真面目が」  駅で葵と待ち合わせ、三人でタクシーを拾って向かう。  LOTUSへ着くと会議室に通された。そこへ最初にやってきたのは新居だった。 「……久しぶりだな」 「……久しぶりだね」  葵との間に静かな時間が流れたが、それはすぐに終わった。  蓮見社長が秘書を連れてやってきた。 「……あっ、ごめん。早かった?」 「別に」  ぶっきらぼうにそう言った新居を葵が叱る。 「何なのその口の聞き方。社長さんでしょ!?」 「いいんだ。な? 健一」 「は? 親しき仲にも礼儀ありでしょ?」  まぁまぁと宥める蓮見社長に葵は頭を下げた。 「初めまして。新居の元妻です。元旦那が大変お世話になってます」 「こちらこそ、新居さんには大変お世話になっております」 「本当にごめんなさい。愛想がない無礼なインテリヤクザで」  新居が喰って係る。 「なんだよその言い方は!」 「大ちゃん!」  社長に諌められて黙った。葵は気にもとめておらず、既に興味は社長秘書に移っていた。 「あら可愛らしい秘書さん」  梅村と名刺交換するなりそう言った。  恐縮しつつも女医に羨望の眼差しを向ける彼の様子がおかしかったのか、虚空を眺めて笑いをこらえる与晴。  蓮見社長は秘書の様子が可愛くて仕方ないといった気持ちが顔に出てしまっている。  社長に窘められ元妻に塩対応され、不機嫌気味の新居。  葵は知らないうちに、菊池とハグしていた。 「……カオス」  つばさはつぶやいた。
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