(02)友

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(02)友

 ……なんの音?  土曜日の朝、まだ完全覚醒していないつばさの耳に聞き慣れない音が聞こえていた。  枕元の目覚まし時計を見れば、朝8時。  また音が聞こえた。  少し頭が冴えてきた。  あれは先週全寮に取り付けられた新しいインターホンの音だ。  モゾモゾと起き上がり、初めて使うそれに少々手間取りつつモニターを表示させた。 「……え?」  そこに映っていたのは沙代だった。 「……なんで?」  なぜ来たのか。なんの用事なのか。  まだ覚醒しきっていない頭で考えてみるが、思い当たる節は無い。  しかし、女人禁制の男子寮の廊下に彼女を放置しておくのはさすがにまずい。  しかし部屋に入れるのも不味くはないか?  ここに来て初めて、相棒が自分を部屋にあげるのをいつまでたっても嫌がる気持ちがわかった。  もたもたしているうちに、またインターホンが押された。  なるようになれと、ドアを開けた。 「……おはようございます」  彼女の出方を見る。 「……おはよう。ごめん突然押しかけて。話がしたくて」  タメ口。  もしかしたらと淡い期待で、彼女を部屋にあげることにした。 「……普通に入れた?」  既婚者で階級が警部補の吉田ですら、管理人さんが厳しく手続き無しでは入れなかったと後で聞いた。 「緊急の仕事って言って、手帳見せたら通してくれた」 「……さすが袖崎の苗字は強いわ」  そう言ったとたんムッとした顔をされ会話が止まった。  彼女から視線を逸らした際、寝間着のスウェット姿のままだということに気付いた。 「ごめん、適当に座ってて。着替えてくるから」  急いでシャワーを浴び、身嗜みを整える。 部屋に戻ると沙代は座って居らず、つばさの大事なうさぎのぬいぐるみを手に取って見ていた。  三歳の誕生日に彼女がプレゼントとしてくれたもの。  『まだ持ってたの?』と小学校卒業の時に言われ、それからも高校に上がった時、 大学卒業の時、警察学校の寮に持ってきた時…… 折々に笑われた。  なんと声を掛けていいか分からない。 とりあえずお茶でも淹れようと準備を始めた。
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