(02)友

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 沙代と茂山は互いを認識すると、何も言わずに凍り付いた。  与晴が咄嗟の判断でそんな二人の間に割り込んだ。 「袖崎さんお久しぶりです。今日はお仕事ですか?」 「ええ、まあ……」 「ちょうど良かった。仕事のことでお願いがありまして。廊下でお話よろしいですか?」 「はい……」  茂山をかなり気にしながらも、沙代はつばさの部屋を出た。  ファインプレーを見せた部下に心の中で感謝と拍手を送っていた呑気なつばさは、突然茂山に胸ぐらを掴まれた。 「お前、沙代と何してた!?」  初めてだった。 彼にここまで怒鳴られたことも、睨まれることも、胸倉を掴まれたことも。 「話してただけだよ、色々と……」 「正直に言え! 入寮から四時間以上経ってる! 手、出したんじゃないのか!?」  つばさは彼の腕を振り払った。 「わたしは男じゃない! 沙代相手にそんな気持ち湧かない! 何もしてない!」 「本当か?」 「本当だって! 和義さんとのこと相談に乗って貰ってただけ!」  自分を見る彼の目が刑事の目では無いことはわかっていた。  これが嫉妬に駆られた男の目なのだろうか? 「……そんなにわたしが信じられない?」  茂山はなにか言おうとしたが言わなかった。 そして深呼吸したあと頭を下げた。 「ごめん…… つばさ…… 悪かった。 頭に血が昇った」 「……いいよ。沙代、見てくる。ちょっと座ってて」  彼を部屋に残し外に出た。  廊下で沙代と与晴はスマホを手になにやら話していた。  だいぶ離れたところで、寮生が三人こちらをこっそり隠れながら見ている。  彼らにアピールするように沙代は言った。 「では、小野警部補、佐藤警部補、この件は引き続きよろしくお願いします」 「かしこまりました。佐藤、玄関まで送って差し上げて」 「はい」 「では……」  あくまでも仕事だと三人で示し合わせた。  つばさはこっそり陰で見ていた後輩たちに声をかけた。 「ごめんな、うるさくして」 「いいえ!」 「とんでもないです!」 「そんなことないです!」  会話が続かない。下手になにか話すとまずい。 自然に振る舞わないとまずい。  咄嗟に口から突いて出たのは、以前全員に配った米のことだった。 「米、無くなったら遠慮なく言いなよ。売るほどあるから」 「ありがとうございます。いただいてもいいですか?」 「俺もいいですか?」 「わかった後で持ってくわ」  この時ばかりは、母のおかしな量の救援物資に感謝した。
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