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「わたしのせいだ……」
彼の大事な時間を奪っている自覚はあった。
懐いてくる彼が可愛くて、ついつい拘束しすぎたのかもしれない。
「そういうつもりで言ったわけじゃ無いです!」
「西谷、そういうつもりに聞こえるよ」
「……すみません。
でもでも! 与、同期の集まりはちゃんと来ますし、
男友達とは遊んでいるそうなんで、彼女を作る気が無いだけじゃないかなって」
「そういえばこの前フラれた時、だいぶ引きずってたからね。しばらくはいいやってなっちゃったかな?」
「それもそうですね…… でも、それ以上に今は小野さんと一緒にいたいんじゃないですか?」
やはり”兄”と一緒に居たいのだ。
「与、小野さんと一緒にいる時、本当に楽しそうで。
うちの同期もすっごく羨ましがってます。与はいいペアで先輩に恵まれたって。
言われた与も嬉しそうでしたし」
いい先輩でも、いい上司でも、ペアでもない。
全ては彼の兄恋しさ。
この姿が彼の兄に似ているばっかりに…
でも、彼が側からみて幸せそうならそれで良いのかもしれない。
少しは兄代わりになれているのかもしれない。
「またこっそり教えて、与のこと」
西谷に頼むと彼女たちは快く受け入れた。
「了解です」
突然、沙代がつばさに謝った。こんな時に言うべきことでは無いが、と前置きして。
「父親が小野雄翼警部補とわたしをくっつけるの、まだ諦めてないみたい」
「は? なんで? お父さんに言わなかったの?」
「つばさこそ、お父さんにちゃんと言った?」
「なにを? そもそもわたし戸籍が女だから、沙代と結婚できないって」
「無理やり戸籍変更させるのかも……」
「は? 完全ヤクザだよもう……」
揉める二人を吉田が窘めた。
「二人とも事情は分かるけど、身内だからってコミュニケーション不足です。しっかり話し合いなさい」
父親への反感がある二人は渋々返事をした。
沙代が御手洗で席を外したのを見計らい、つばさは吉田と西谷にある考えを話した。
沙代と茂山のヨリを戻させたいと思ってること。
袖崎家が最大の難関ということ。
母に相談するつもりだということ。
彼女たちは両者と常日頃接していて何となく察していたのか話は早かった。
「時間稼ぎと目眩しで、小野さんと袖崎さん、付き合ってるってことにしたらどうです?」
西谷が提案すると、吉田も賛同した。
「班長と茂には黙っておこう。与晴と玄さんには共有」
「……え? 班長もですか?」
「上長としてわたしと玄さんが知ってれば大丈夫。
あの人に知らせてもいろいろ面倒だし」
吉田は三宅に対し、仕事以外では全く敬意を払っていない。
「……はい」
「じゃ、袖崎さん帰ってきたら具体的に計画進めましょう」
その日、沙代から二つ返事で賛同を得られ、小野雄翼と袖崎沙代は表向き付き合っていることになった。
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