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#1 Life and death
“門脇隼”
か…
その名前を知ったのは中学三年生になったばかりで
どの学校が面白そうか夏月と話をしていた時。
親父が頭を張ってた“志騎高”
そこで1番になることが夏月の目標だと、
父を越えたいと話すが、
俺は正直興味はなかった。
無いけど、どんな奴がいるのか知るべきだろうと周りの奴に話を聞いたりしていると、
中二の時仲良くなった豪田というオネェから面白い1年生がいると聞いた…それが門脇隼だと。
タトゥーを彫ってもらいながら
豪ちゃんの話を聞く。
いろんな名前を聞いて覚えきれなかったけど…
その時は期待していた。
志騎高は楽しいことがたくさんあるんだって。
…高校1年生…
入学して早々に夏月と学校内を荒らした。
机に落書きをして教室をめちゃくちゃにして。
先生達に嫌な顔されて…怒られて。
…周りが怯えてた…けど、
あれ?
…先輩達…手を出してこないなぁ…
ふと学校内を見渡すと綺麗に整備されてるし…
…綺麗すぎるし…
…平和だ…
『つまんねぇ』
夏月その一言が志騎高にいる意味を無くした。
…確かに俺たちだけなんか浮いてるような…
京極ゆかりまで別人のようになっていたし、
平和な学校なんだと知り、
高校1年の時は学校に行かずに外で遊び歩いた…
それは中学の傷を癒すためには丁度いい時間で。
適当な男友達とか、女友達とか、
片っ端から遊んだ。
夏月と喧嘩に明け暮れ、
志騎高のことなどすっかり忘れ、
ただただ夜の街を衝動的に破壊していく。
………
でも高校2年に差し掛かった時、
夏月が家に連れ戻された。
俺とのお遊びは終わりだ…と言わんばかりに、荷物が少しずつ減り始める。
…家業か…
鷹左右組という家は代々、子に継いで来ていたし、
実質“兄”である夏月はいずれ…
こうなるものだとは思ってた。
でも、高校生じゃん?
まだ早く無いだろうか…
…まぁ、理由は推測できた、
俺たちの行いが悪すぎるから。
“鷹左右兄弟”って名前が広がり過ぎたから、
親父が止めようとしてる。
…嫌だった。
俺は夏月の後ろに居て、
暴れて騒いで、楽しいことができてれば。
それだけで満たされてた。
それが生きる意味だった。
…そんな気持ちとは裏腹に夏月は組の仕事が楽しいのか家に帰らなくなっていった…
拾った犬【ピンちゃん】と2人…
高校2年…どうやって生きる?
夏月がいない中で俺は何がしたい?
…夏月になりたい。
…憧れていた、真っ直ぐで誰よりも強くて、
俺の手を引いて…
優しい夏月みたいに…
なりたい。
嘘がなくて…
澄んだ空みたいな…
1人で出来るのか不安だったけど、
やれるだけやってみようと思った。
………
高二になって新一年生が入ってくる。
新しい顔触れの中に、懐かしい子もいる。
入学式の前に“結城唯舞”と話をした…
一つ下にあたる彼は志騎高へ入学となり中学同様また後輩になるらしい。
彼よりも会うことを躊躇っていた、
双子の“凜々栖”は近くの剣ヶ崎高校へと入学するようで安心したが、
唯舞に会うように言われて久しぶりに会った凜々栖は傷だらけだけど強くて甘くて優しい女の子になっていた。
凜々栖がそっと俺の頭を撫でながら、
「はるくんは、つよいこだよ〜?」
なんて、甘い声で励ましてくれて…
中学の時に彼女の前から逃げた自分に嫌気がさしたし、涙が出そうだった。
「ごめん」としか言えない。
「あめ食べる?」
不意にその時、
凜々栖から可愛らしい飴をもらった。
ミルク味だ。
甘くて優しい彼女らしいチョイスだった。
その日から、俺は飴を持つようになった。
昔から嫌いじゃ無いしよく食べていたけど、
人に渡したことは無い。
誰かに物を譲ることをした事なんて無かったけど、
その日を境に飴を渡すようになった。
…
ゆかりと少し話すようになった頃、
“まるみ屋商店”に居座ることが増えていた。
実際に夏月みたいな感じで振る舞うのは難しいだろうし…
どうしたもんか、
団子を食べながらじっと目の前で女の子が絡まれてるのを眺めていた。
…助けてみるか。
よくわからないけど…
正直…人を助けるなんてした事がない。
助けた人物“城崎湊”はトラウマを抱えて男性が苦手な様子だ…いや、人自体が苦手…なんだろうか。
変な気を使わせないように俺が助けたのは団子だからなんてジョークを言うと口元が緩んで笑いながら。
「…お団子のヒーローですね」
なんて楽しそうに言う。
彼女は普通に話せる子なんだろうな、
なんて…
俺も何故だか口元が緩んだ。
変えられるかもしれない…
この子の世界を。
湊は俺の前で楽しげにハンバーグを頬張ったり、
学校のやつとも少しずつ距離を縮めていた。
…それを見てると凄く嬉しかった。
はじめて、
誰かを助けたように俺は思っていたけれど、
ゆかりは気付かないうちに
俺に救われてる人はたくさんいるなんて言う。
全然、その言葉の意味を俺はその時に理解できなかった。
………
志騎高の2年A組の教室、
俺がくるとやっぱり空気が悪くなる。
そんな時、1人の明るい声の女が話しかけてくる。
“榊悠李”
特に怖いとか思わないのか、好奇心か、
平気で俺に声をかけてきた。
遊んでくれんのかな?
ってちょっかいをかけると嫌そうだし。
意味がわからないと思っていた。
…俺が興味を持って悠李によく話しかけてると、女共になんか言われてるみたいで…
助けてやろうとしたら…
「あぁもう…あんたらの気持ちなんか知るか!!!」
なんて、悠李の強気な声が校内に響いて
威圧する言い方に女子が怯んでた。
「好きなんだったら…話したいんだったら、もっと自分から積極的に行けば?!…悠李に言ってたって何も変わらないよ!!!」
…俺が言いたい事そのままを悠李は口にする。
はっきりものをいうタイプは嫌われやすい。
でも、信用や信頼を得る。
俺は嫌いじゃないなと感じた…
面白いやつ…いるじゃん。
女だけど、悪くねぇな…
こういうの…
少しだけ学校に来てもいいなって感じた瞬間だった。
……それから、悠李とは計画ばっかした。
お好み焼きを家庭科室で作るとか、
数学顧問のキダセンまで俺のやることに手を貸してくれた、はじめて先生で好きだなって思ったのはキダセンだし…
凄い話しやすい、楽しい。
勉強会でも手を貸してくれた。
数学好きになりそうだなってのは…
嘘だけど。本当。
俺は、もともと勉強は好きな方だから、
数字とか嫌いじゃない…
学校戻ったらちゃんと勉強してみようかな。
…1年生や2年生との輪が広がっていったのは、ある意味、悠李のおかげでもあんのかな。
……
悠李といえば、萌か。
“織原萌”
悠李の彼氏だって聞いてからかってやろうとネタにしてたんだけど、本気で悠李を好きで大事にしてて、俺に嫉妬までして。
…凄いかっこいいよ。
海に行った時にはじめてみる顔がたくさんあった、
俺なんかより芯がしっかりしてた。
悠李が女の子らしくいられる場所を作れるのは、
萌の優しさと真っ直ぐな性格だから…
2人はきっと切れることは無いだろうな。
羨ましいくらいだった。
…俺は、そこまで自信を持って…
誰かを愛せるんだろうか……
………
愛するかぁ…
不意に思い出すのは“華園千雪”か…
…結局、あれだけ言ったけど、
辛くなるぐらいなら手を離しちゃったな。
友達にまた戻ったら、
1から一緒に思い出作ってくれるんだろうか、
…いや、1からなんて嫌だな…
あんまり深く考えたくないけどさ、
好きだったよ。
きっと、いつまでも…
生まれ変わっても、千雪の事また好きだなって思ったりするかな。
俺の方を向いてくれなくていい、
……
向いてくれる間だけでいいから、
傍に居てくれたら、
それだけでいい…
好きな人が居るんだっけ?
幸せになって欲しいなぁ…
……
…そういえば、
高二になりたての時、
廃墟と貸してる無法地帯で大好きな落書きをしていた。
壁にアートを広げるのは俺の生きた証だ。
気持ち良くカラフルに描く。
今感じたままを映し出す。
…中学生からずっとハマって描き続けてる。
そんな場所を荒らす集団が目につく、
その真ん中で1人の男、綺麗なリーゼントが目につく“コーヤン”が集団リンチに会っていた。
「お前ら全員ごちゃごちゃうるせぇ、見た目がどうだ、弱いからなんだ、そんなのテメェらに笑われる筋合いねぇんだよ!!!!!」
急に叫んだコーヤンに全員が怯んだ。
あぁ、すげぇ好きだなぁ…
言葉の威嚇。
ただ、弱い、痛い、弱すぎ。
ボコボコにされるコーヤンを見て感じた。
…助けよう。
昔なら見て見ぬふりをしていた。
でも湊の事があったから、俺は英雄にでもなったかのようにコーヤンに手を差し伸べた。
夏の間は一緒に毎週訓練もした、
嬉しかった。
単純に俺を信じてまっすぐ向かってくるコーヤン…
察しがいいから俺の嘘も気付いちゃうし。
誤魔化すのが大変だ。
…将来有望だよな。
期待という言葉が似合う男だって感じていたし、
俺だけに留まらないで広く活躍していける…
そんな風に感じていた。
…自分から喧嘩に勝った報告をしてくるの、
めちゃくちゃ可愛くてさ、
…思わず幸せだなって感じたりする事があったし、
俺にも誰かを育てる事が出来るんだって、
自信がついた。
……
その時に一緒に巻き込まれていた、
“輝田莉桜”
…絶対普段なら話す事がないだろうノーマルな女の子といった印象だった。
俺の見た目もあるから怖がられるの
かと思っていた。
…でも彼女は俺があげた飴すら食べずに、
大事そうにするし、俺に稽古してくれないかとか、
喧嘩でもするつもりなのか…、、、な?
と思って距離感に悩んでいたある日。
学祭の演劇部で彼女の内面に触れた。
強く強くあろうとするその精神、
単純に我慢強いんだなぁ。
ほっとけない感じもするよな。
いろいろ教えてあげたい、
自分の中に抱え込むんじゃなくてさ…
俺にも教えて欲しい。
そんな風に接していたからだろうか、
俺が学校から姿を晦ます前に遊んだ帰り、
メッセージのやりとりだったけど、
凄く嬉しかった事がある。
『帰った後にこんな事言うのも変な話なんですけど……私、多分春輝先輩の事好きです。
自分の気持ちなのに、多分なんて変ですよね。
私今まで恋愛ってよくわかんなくて、でも、この前千雪先輩と付き合ってないって聞いた時にホッとしたんです。
きっとこれが恋なんだなぁって思いました。』
それを見て、莉桜ちゃんに教えてあげられたこと…
喧嘩じゃないけどあったんだ…
それに驚いたと同時に嬉しくて携帯を強く握った。
『だからといって春輝先輩と付き合いたいとか、そんな事は考えてなくて!
今は部活で頑張りたい気持ちが強いですし、一方的ですけど、私の気持ちだけ伝えたくなっただけなので!気にしないでください!
また、会える日が来るって信じてます。
いってらっしゃい。』
俺が消えることに対して、
嫌だとかそんな気持ちじゃない、
莉桜ちゃんは…嬉しい言葉と背中を押してくれた。
相手の気持ちを尊重できる優しい女の子だ。
俺の気持ちを尊重してくれてんだよな。
本当はもっともっと感謝の気持ちを伝えなきゃいけないはずなのに、
嘘をついて…最後に誤魔化した。
それなのにさ、ケンコーの旧校舎に夜一緒に忍び込んで楽しかったね。
みんなの悲鳴凄かったなぁ。
…結局さ、
いろいろと…泣かせてごめん。
でも、
もし帰ったらさ、
おかえりなさいって言ってくれるかな。
……もう一度話すチャンス…くれるかな…?
……
莉桜ちゃんといえばさ、
“最上玲”の印象が強い。
ツンとした女の子だからあんま話しかけたら駄目かなって気はしてたけど、意外と話すと可愛いところがあった。
莉桜ちゃんのことばっかりだったけど…
凄いいろいろ考えててさ…
将来は美容師になる、家を継ぐって知って、
美容師に興味があったから職場見学までさせてもらっちゃったんだよな。
一緒に絵を描いたのも楽しかった。
美人なお母さんにあって、鍋をみんなで食べたりさ。
玲にパーマやってもらう約束したんだったなぁ…
髪、長くなったし…
行きたいな、美容院。
『自信ない人とか、
こうなりたいって理想を叶えてあげたい。
みんな自分が綺麗に咲く花の蕾だって
気付いてても咲かないっていうか…
なんて言えばいいかわからないけど。』
美容師を通して、
そんな風に人に勇気や自信を与えようとしてる、
夢がある玲がすごい眩しく感じた。
…いいなぁ、俺もなんか、夢…みつけたい。
……
春過ぎた頃、
ゆかりが俺の監視だとやたら付き纏うようになって、お気に入りの川辺で絵を描いていた。
そんな時に出会った…
“古谷薫”
なんとなく…その存在は知っていた。
そう、確かに…強かった。
興味津々に喧嘩の現場を眺めていたし、
…手を出すつもりはなかった。
薫は強いと、なんとなく動きを見て思ったから…
必要ないと思っていたんだ。
でも、ゆかりが違和感に気付く。
人数が減らない…そう、どんどん増える一方なのと…ましてや、増えた奴らは武器を持ちスタンガンとまできた。
…これは、相当なヤツだ。
どんだけ恨みを買ってんだか…と思ったけど、
ゆかりまでそれを見かねて動くものだから、
久しぶりに嬉しかった。
…
「春輝、返事してなかったな…今日ぐらいは背中貸してやっても良いぜ」
そういって、背中にポンッと手を当てられ、
途端に身体中熱くなったのを今でも覚えてる。
…嬉しかった。
夏月と一緒に戦ってた時を思い出す。
好きだなぁ、こういう状況。
「じゃあ、反撃開始だね」
「あぁ」
その日、すごい調子が良かった。
薫の事を知ろうと思ってラーメンを作るからと家に招いた…
夏、一緒にサバゲーとか言ってくれないかなぁと声をかけたんだけど、
あんまり好きじゃないみたいで…
結局断られた後、話しかけるのやめた。
学校でも和子ちゃんとかとゆっくりしてたりするし、女の子といる方がいいのか?
…いろいろ俺がやってることとか…
話してみようと思っていた…けど、
薫の時にね、挑んできた、
ザキもガミもさ…本当は悪いヤツじゃなかったよっ……て話とか。
……結局、話したいことはたくさんあったのに…話すことはなかった。
話すタイミング失っていってた…なぁ…
…和子ちゃんか…
嫌いとかじゃないのに、
どうも苦手なタイプっていうかさ、
薫の女なんだって実は遠慮してた時もあった。
夏祭りで金魚すくい一緒にしたの、
すげぇ楽しかったし、
本当は遊んでみたいけど、
和子ちゃん…遊んでくれんのかなぁ……?
……
ゆかりを通して知った…
“鬼火星那”
俺やゆかりの人生はあの日から狂わされた。
鬼火組はダミーだ。
その奥にある京極病院の手の内でまんまと踊らされていた事に気づいた時…
星那ちゃんにもお兄さんにも申し訳なく思っていた。
でも、星那ちゃんの優しさが、
ゆかりを変えてくれた。
凄いことだと思ってる。
星那ちゃんが居なければ…
ゆかりが本当に心の底から笑うことなんてなかった。
それに…
ゆかりの口から驚く事を聞いた。
“成宮拓海”という三年生。
あんまり目立ってないイメージだったけど、
キスを?した??
俺は、ゆかりから聞く言葉に全て戸惑った。
上ずって陽気で楽しそうに成宮拓海の話をするゆかり…
好き…じゃん…めちゃくちゃ好きなんじゃん。
本当に驚いた。
待たせてるって聞いた瞬間、
俺は身体中から血の気が引いた。
「おい、待たせてんじゃねぇ、今すぐ学校戻れ…あとは俺が全部やる…ゆかり、自分の素直な気持ち…ソイツに伝えてやれ…
任せろ、俺が全部もらうから」
ゆかりが俺の言葉を聞いてキョトンとしていた。
わかるわけない。
俺はこの時、
待つことの辛さを感じた。
千雪に告白したような形になっていたようなこともあったなぁ…
無理だってわかりながら待つ辛さとか、
もう全部いらないって思ってるけど。
時間なんか限られてる。
明日死ぬかもしんねぇ。
初恋の人も失ってさ、
辛いよ。
…俺は、
もし俺なら耐えらんねぇよ。
今だって怖くなる。
きっと、この先恋愛は出来ないんじゃないだろうか…
でもさ、
ゆかりはずっとずっと耐えてきただろ?
だけどさ…?
幸せになれる道、あるじゃん。
無理矢理匿っていた家を追い出した。
軽い服だけを持たせ、豪ちゃんに押し付ける。
事情は豪ちゃんに言ったし。
俺の分も、
好きな人と結ばれて幸せになれよ。
ゆかりにはその道がある。
権利がある。
俺が、後押ししたんだから、
絶対その拓海ってやつを離すなよ?
離したり離れたりしたら許さねぇから…
……
豪ちゃんといえば…
理人と封牙の事を思い出した。
…“原田理人”か…
ダンスの趣味が一緒だってのとか、
学校が一緒だって知ってから、
はじめから頼りにしてる部分がデカかった。
いろんなスタイルを見ていたし、
なんとなく話しやすかったから。
幼馴染だという“不成封牙”がいると、
からかいやすくなるのもまた楽しいんだけど…
理人…封牙のこと…好きなのかな?
なんて思う時が結構あった。
変な遠慮してるのも気になったけどまぁ、
2人のことだし、あんまり首は…
突っ込まないつもりなんだけどなぁ…
アイツら今頃…なにしてるかな?
怪我とか平気だっただろうか。
…学校戻ったら…
…絡みに行きたいよなぁ…
クラス一緒になったら、
きっと楽しいだろうな。
…
クラスが一緒か…
つい最近のこと…だな…
“志摩陽向”
まさかさ、あんな状況になって…
陽向とこんな話すことになると思ってなかったよ。
あの時は学校辞めようと思ってた…
『これはあくまでオレの気持ち
オレの価値観
オレの事情
春輝くんには春輝くんの価値観があって、
事情があるから…
それで学校やめるっていうなら仕方ないのかもしれないし、オレに止める権利はないと思う
………でも
学校祭のあと、春輝くんが学校こなくなってから…
いつも前の席があいてる…
寝てるオレの頭の上を飛び交う、
悠李ちゃんとの言い合いが聞こえない
それがこのさきずっとかと思うと
寂しいなって思う』
陽向はいろいろ抱えているみたいで、
トラウマもあるし、
そんな中で優しく語りかけてくれた。
「自由がきくならなにがしたいか、
自分がなにをしたいかを探すとか
そこに意味はいらない、自分の願望だけ
時間かかってもいい
見つかったときに初めて、今までやってきたことが意味になるんじゃない?
意味はあとからでもみつかるよ
でも、きっと疲れると思うから
なんか疲れたりとか…
話したいとかあったら…
聞くよ、いつでも」
…何かをする時に、
こういう事言ってくれる人がいるのが1番いいよな。
…陽向は本当に癒される。
緊張していたのに、
上手い事気持ちが溶けていって…
いいなぁ、この感じ。
陽向は聞き上手なんだと思う。
つい話しちゃうこともあるし、
それを迷惑だとは言わずに。
静かに聞いてくれる。
最後、
中途半端な態度でごめんな。
俺のこと嫌いになったかな…
また、話せるかな?
……
…
あの後、
ピンちゃんを久しぶりに家に連れて帰った。
もう終わったもんだと油断したから。
…まさか、タイミングよく
“芥田檀一郎”に会うとは思わなかったなぁ。
「俺さ、動物虐めるやつって嫌いなんだよね…
アンタ満足に動けなさそうだし、多少は協力できると思うんだけど
あぁでも顔がバレんのは厄介だな…」
自分の顔を触りながら困ったようにしててさ、
ほんとブレないよなぁ。
もう身体中が痛いし、
割と限界だったし、
でもピンちゃんは…
なんとか、なんとかしなきゃなんなかったし。
檀一郎って距離とりながらも上手く接してくれるからさ、…
悪くない、…
意外と…1番いいのは、
檀一郎ぐらいうまく距離保ってくれるタイプなのかもしれないな。
こんな人になれたらさ、生きやすいかな。
…
ゆかりから実は檀一郎の名前は
すげぇきいてた、
………
聞いて…びっくりしてさ、
ゆかりが怒るなんてびっくりしたよ。
泣きもしないタイプなのにさ。
本当は、1番感謝しなきゃなのかもなぁ。
ありがとう、檀一郎。
………
…
ねぇ
“レイカ”
俺は、どうしてあげたらよかったんだろうな。
…
「どんな春輝でも嫌いになんてならない!!!!
いかない、ここにいる
春輝がでてこないなら、
出てくるまで、前で待ってる!
春輝が派手な髪やめても、
アタシは春輝を見つけられる
どんな春輝でも、
アタシは嫌わないし見失わないっ」
そんな風に言ってくれた。
…それだけじゃないよ、
必死に言ってくれた言葉がたくさんあってさ、
俺自分にそんな価値があるなんて…
思ってなかった。
泣かせたな…
俺の分まで泣いてくれてさ…
駄目だなぁ。
駄目だよ。
レイカ、そんなに感情を俺に重ねちゃったら…、
壊れちゃうし、呑まれちゃうから。
なぁ…レイカ、もういいんだ。
泣かないで。
俺には…もう、何もないから。
…俺のことは気にしなくて大丈夫だから。
他にも学校のやつの事を思い出していた。
先輩や後輩なんて関わることないと思ってたけど、
なんやかんや話してたんだな。
タロ先輩とか…本当に苦手。
なんでもまっすぐ話しかければいいわけじゃ…
ないよ…?
…
でも、なんかね安心するんだよな。
嫌いなんだけど嫌いになれなくて。
俺を守ってくれた時、凄いホッとした。
なんかすげぇ会いたいなぁ…
今の俺を見てなんて言ってくれんのかなぁ。
怒る?無視するかな?…
もっと仲良くなりたかったなぁ…
巽先輩とかさ、凄い話したいけど…
神谷組の頭、巽先輩のお兄さんが出てくるのはもう嫌だし…話しかけずらいな。
話すの好きなんだけど。
今何してんのかな。
巽先輩って、女の子と遊んでるみたいだけど距離感うまいんだろうな…
奥まで見えないから、
きっとたくさんの人に好かれてるんだろうなぁ…
…ミズキって危なっかしいけど、
どこか同じように感じてた時とかあってさ。
夜が落ち着くのかな?
喧嘩とかすんだ…
女の子だから駄目だとは言わないけどさ…
可愛いからこそ、狂気的で悪くないし、
…可愛いけど、でもそれが寂しさの埋め合わせなんだったら、
俺も一緒に戦えるのかな。
…何と戦ってんだろう……
リナちゃんと学祭で向き合って絵を描いた時…
はじめて普通に笑ってくれたような気がした。
自分のこと可愛くないとかマイナス評価ばっかりしてんだけど自信持ったらもっと生きやすいだろうにさ…勿体ねぇなぁ…
って、俺も自分には自信がねぇんだけど。
…髪、そうだな…帰ったら白っぽく染めてみようかな…ホワイトブロンドだっけ?
明るい髪色っていいよね。
気持ちも晴れやかになるから。
いいな…
また…お絵かき一緒にしてくれるかな……
ナオヤ…結局何を抱えてたんだろう。
凄い中途半端に話すら聞けないまま学校から離れちゃったな…
いま、どこに居る?…
みんなのこと考えてたら…
キリがねぇよ…
赤信号で止まりタバコを吸う。
青になって適当にタバコを地面に投げバイクで走り出した。
ある夜のハヤト先輩との言葉を思い返す。
あれは丁度…ゆかりを匿っていた時のこと。
どうしようもなく人手が足りなくて…
先輩達に相談しないか…と、
ゆかりが提案したのがきっかけだった。
『ハヤト先輩〜…元気ですかぁ?
今俺、学校行ってないから全然みんなの状況もわかんないんだけど。
てか、……
はじめてDM送ったなぁ〜…笑
…あんまり関わること無いから避けてたんだけど、
ちょっと2人で話してみたかったんだよね。
話してくれるかな〜……?
みんな学校で何かとハヤト先輩の話をするから…
どんな人なのか、
喧嘩とかそんなに強いのかとか…割と高1から気になってたんだけど…
夏月が学校から居なくなってからさ、俺は喧嘩したくて生きてるわけじゃ無いから興味なくなってたんだよね。
でもなんかふと今になって…
いや、今だからかな、
話してみたくなってね。
タロ先輩だと、
説教みたいに話してくるからなんかイライラしちゃってさぁ〜…
俺の話、聞いて欲しいなー…?
なんて、思って。』
…こんな文で返事が来るのだろうか…
…その時は期待してなかった。
『俺に?頭よくねえからなんか良いこととか言えねえけどいい?…お前が話したいなら聞く。』
意外な返事だった。
聞いてくれるなら、話してみよう…
『ウケる、頭良く無いとか気にするんだ…笑
ん〜、てか俺だって頭良いかどうかわかんないし。
話してみないと分かんなくない〜?
俺とハヤト先輩が2人でいたら、
周りが何話してるか気にするだろうから、
このままDMで会話すんね。
いつかちゃんと、並んで話せればいいんだけど。
そーいう仲でもないだろうから。
いざ話してみようと思うと、
上手い言葉が出てこないんだけど…まぁ、聞いて。
ハヤト先輩って今までで、
何と戦った時が1番辛かった?
俺ね、シキコー入った時に違和感が凄いあったんだよね。
夏月…俺の兄もだけど…
この学校がヌルイって言ってた…
わかる気がした。
俺たちは中学からずっと一緒に悪いこともしたし遊んできてた…鷹左右兄弟はヤバイって言われてて悪い気はしてなかったし。
シキコーに入ってもテッペン獲るって夏月が意気込んでたから…
きっとそうなんだと思った。
……、
…
でも、夏月が興味なくなったって…
シキコーじゃないってさ…
“俺のいるべき場所”はシキコーじゃないって…
俺の前から居なくなった。
俺は夏月の影で遊んで楽しく馬鹿やってればそれだけで良かったし、
喧嘩も別に好きじゃないし…
夏月が居なくなってみたら…
俺ってね、何もなかった。
俺が一体何のために生きてんだかわかんないし、
虚しいだけだったんだ。
…今でもそうなんだよね。
探しても見つかんないんだよなぁって。
まぁさ、仲良しごっこに見えたんだと思う。
夏月は悪いやつじゃ無いけど喧嘩しか頭になかった能無しだったから…
嫌だったんだろうね。
兄弟だからお互い信頼していたし夏月の気持ちもわかるけど。
みんなと関わってみたら、
案外悩みとか色々もってんだなぁ…
楽しいこともあったし、
悪くないじゃんって思う事もある。
別に俺は嫌いじゃないんだけどさ、…
どっかに違和感だけが残った。
俺も多分ね、
いるべき場所じゃねぇんだよなぁ…
なんて、夏月と同じように
ずっと思ってんだよね。
だからまぁ、
3年ってもう卒業間近じゃん?
せっかくだから、
話したかったんだよね。
ハヤト先輩ってやたら名前聞くのにさ、
実際に何考えてんだか…
どうしてそんなに周りが集まってんのかとか?
喧嘩が強いだけじゃないからこそ好かれてんのかなぁとかさ…
いろいろ考えてみたら、
ハヤトハヤトってみんな言うわけ。
夏月がハヤトって言う先輩強いらしいから潰せばいい?
みたいな感じだったしさ、…
?
…俺はまぁ…
何でかなぁーーーって。
多分それって自分じゃ気付いてないものなんだけど、…
ハヤト先輩って俺にとってコロッケパンか身長気にしてるぐらいしかイメージ無いからさぁ。
わかんないから、
いきなり拳で語るとか言われたら困るけど。
まぁ、殴りたいなら殴ってみてもいいけどね?笑
なーに、考えてんのかな〜?
みたいな?
シキコーをどう感じるのか、仲間とか?
どーいう気持ちで連んでんだろうなぁみたいなさぁ。
気になった。
別に深く考えなくてもいーんだけど、なんか話したら変わるのかもなって。
話終わってから、
まぁ…頼みもあんだ…
長くなってごめんだけど』
長すぎる。
我ながらあの無口なハヤト先輩にこんな長文で話しかけるなんて…と、
読み返しながら笑いそうになっていた。
異様な質問責め…喧嘩売ってるわけじゃないけど、
なんか話してくれるのかな?
めんどくさいやつって思われそうだよな。
なんて思っていたら、
意外にも早く返答が来て驚いた。
『悩んでることは頭いいやつに聞いたほうがよくね?っていみだったけど、
お前が話したいことってそういうことか。
お前とはあんま話したことなかったけど、
いろいろむずかしいこと考えてんだな。
ここがいるべき場所だなんておもってる奴のほうが少ねえとおもうけど。
つか、いるべき場所なんて自分でわかるわけねえ。
ここにいたいか、いたくねえか、それだけだろ。
それもまだわかんねえんだったら、
自分が何してる時たのしいかとか、
そういうの考えればいいんじゃねえの?
俺が嫌なのは、
クソみてえな、意味のねえけんかかな。
ぶっ飛ばしてもすっきりしねえ、
一方的な暴力とか。
リンチがしてえんじゃねえ、
けんかがしたいから。そういうのはつらい、
のかな。
シキコーは、お前らがいうとおり俺が入ったときよりはぬるいのかもな。
前は毎日けんかして、上の奴らぶっ飛ばして、
あのときはほんとけんかしかしてねえわ。笑
強えやつとけんかすんのたのしかったな、
自分だけが立ってるときとか、
なんていうんだろ、
すげえ熱くなれることがけんかしかなかった。
今は前ほどけんか売られねえし、
ぜんぜん減ったけど
でも、けんかじゃねえけど、
たのしいこといっぱいあるって、
そういうの全部あいつらが教えてくれたから、
俺はシキコーに入ってよかった。
ここにいたいっておもってる。
いるべきかどうかなんてのはわかんねえけど。
シキコーが変わったのは、
いる奴らが変えて行っただけだとおもう。
楽しいように、けんかだけじゃなくて、
みんながなんか思うことあって、
そうやってどんどん変わってんだとおもう。
大事なのはシキコーをどうするかじゃねえ、
シキコーで何をするかだろ。
けんかでもいい、勉強でもなんでもいい。
場所が大事なんじゃねえとおもう。
逆に言えばどこでだってやりたいことはできんだよな。
俺もお前も。
なんか答えになってんのかこれ?笑
あんま長く文字打たねえからよくわかんなくなってきた。
で、誰が言ってたかわかんねえけど、
俺の名前がいっぱい出てきてる理由は
俺にはわかりません。』
思わず最後の方は声に出して笑ってた。
わかりやすい回答でストレートだなぁ。
いたいか…いたくないか…か………
辛いことは、なんか似てるかも。
俺も嫌いなんだよなぁ、
無意味な感じの喧嘩……
それに…ずっとそれが嫌で
ヒーローごっこみたいにして、
…手を出してきてたわけだし。
俺に出来ること精一杯やろうとした…だけでさ…
…
『ウケる。
なんか伝わった。笑
つまり、三年いなくなったらまた違う代が入って変わって、俺たちが卒業すれば下の奴らがまた雰囲気作って、
それはそうだよね、
今を作り出してるのは、
みんながってことね…
そっか。
ありがとう。』
俺が三年生になるところは想像がつかないけど…
でも、きっと今の二年なら先輩の雰囲気継いでいい学校作るんじゃねぇかな…
そのあとは何度も長い文のやりとりをして、
ハヤト先輩のイメージが凄い変わった…
どうしても会いたくなったから、夜に、
人気のない場所で会話をしたんだよな。
その時に言われた、
ある一言が未だに脳に焼きついて離れない。
『お前の言う通り、完全な正義なんかねえよ。
でも、「だからなんだ」って自分のおもった正義で動けばいい。
誰かの悪になろうが、
お前の正義に救われたやつだっているだろ。』
この言葉で、
俺は俺の正義で
…“京極病院”を潰すと意気込んでた。
みんなが…きっと志騎高を守るだろうから、
この時ね、
死んでもいいから背負ってやろうって…
本気で無理な時にはみんなに頼るかもしれないけど、それは最終手段だ。
出来る限り足掻く…つもりだった。
夏月が目の前に現れて、
自体が一変するまでは…
そう、
結局、なにもできないまま…
“全部終わった”
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