夢のスタメン

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主審「バッター! 早くバッターボックスに入りなさい!」 「すみません・・さぁ来い!・・大野!いや大野先輩?」   「大野、山本に第6球・・投げました!・・打ちました・・いい当たりだ!・・伸びるぞ、伸びる、センターバック、なおもバック・・」 ・・・・・ 「次郎! あんた、いつまで寝てるの! 今日もクラブ有るんやろ!」 「えっ、遠くに聴こえる・・今のはオカンの声! と言うことは?・・なんや夢やったんか⁉ あ~ビックリした、オカン!もっと優しく起こしてや、ビックリするやろ!」 「もう、表でアンタのファンの女の子らが待ってるで」  俺は高校の野球部員だ、今日は日曜日で学校は休みだが、クラブが有った。だからオカンが眠っている俺を起こしに来たってことだ。いつもいい夢みてるときに起こされる、しかもいい場面でだ。 「ご馳走さん、ほな行ってくるわ・・」 「はい、これ弁当や、学校に着いたら涼しいところに置いとくんやで・・それからな、無理して怪我なんかしたらアカンで、痛い思いして、損するのは自分や・・分かったな!」 「うん、何べんも言わんでも分かってるがな・・」  玄関の引き戸を開けると、俺の高校に通う女子生徒3人が待っててくれた。 ちょっとだけやけど甲子園で活躍してから俺にもファンが出来た。お陰で学校までの道のりでは、そのファンが荷物を持ってくれる。最高やで! なんか偉くなったみたいで気持ちエエもんやで・・ 「山本、お前偉くなったもんやな・・カバン持ちまで雇うてんのか?」  アッ先輩や、悪いとこ視られたな・・ 「轟先輩!オッス・・雇てるのと違いますねん・・ボランティアでんねん」 「まぁ何でもエエけど、ちょっと頼みが有るねんけど、どないや、訊いてくれるか?」 「俺に出来ることでしたら・・」 「俺にも妹が居るねんけどな、そいつがお前のファンや言うこっちゃ!」 「あっ、それはどうも有難うございます。それが俺と何か関係あるんですか?」 「あるから、頼んでるんやないか!」 「なにを?・・えっまっ、まさか俺と付き合ってくれ?・・そんなん無理です!」 「お前アホか? 違うわ、これや・・これにサインしてくれたらエエねん」  先輩は手に持っていたサイン色紙を俺に手渡した。 「それなら、お安いことです・・先輩サインペンは?」 「それぐらいお前持っとらんのか!」  先輩が持って無いのに、俺が持ってる筈ないやろと、言いたかったけど心で思うことにした。 「山本さん、これ使ってください」  助かった、俺の傍いたファンの子が、サインペンを差し出してくれた。ファンの中でもこの子が一番可愛い子だ、よく気~も付くし。 「先輩、これで宜しいですか?」 「おう、すまんの!」  この先輩は、野球はへたくそだが、校内の何人かの番長の一人でも有った。 そのため、部内でのやっかみや、時には虐めも、この先輩のお陰でその多くのブラック案件は避けて通ることが出来ているのである。  俺が七歳のころに両親は離婚をした。それからの俺は母親の女手一つで育てられたと言うことだ。 中学生の頃だった、担任から「母親だけで子育てしながら生活することの大変さ」を教えられた。 だから俺は一日でも早く社会人に成って、母親の負担を楽にさせてやりたかった。 その為にもと馬鹿な俺なりに真面目に勉強するようになった。 お陰で勉強が楽しく思えるほど、成績が上がっていったのである。
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