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プロ野球に就職
今の高校の担任に「推薦してやるから、大学に行け」と言われたことが有る。
俺は迷ったが、これ以上オカンに頼るわけにはいかなかった。
だから、プロ野球のドラフトに掛かったときは嬉しかった。
プロ野球選手になれたことよりも、オカンを楽に出来ることが嬉しかったのである。
入団した翌年の春の事、俺たち新人にもプロ入り初めてのキャンプが始まった。
俺はタートルズのナインがウオームアップをしているグラウンドに案内された。
「みんなを集めてくれるか?」
監督がヘッドコーチに声を掛けた。
「お~い、みんな集合だ! 聞こえたらみんな集まってくれ!」
片桐ヘッドコーチがナインに大声で叫んだ。俺は片桐ヘッドコーチの現役をよく知っている、現役の頃はショートを守っていたが守備はピカイチだった。
集合した選手たちは俺たちを囲むように大きな輪になっていた。
「いいか、みんなもニュースなんかで既に知っているだろうが、今年のホープを紹介しよう」
その場には俺の他にもドラフトで選ばれた仲間が2人居た。
俺たち3人の紹介が終わるとロッカーに案内された。
「キャンプ中はこのロッカーを使ってくれ・・それと食後は、説明会が有るのでそのまま食堂に残ってくれ、いいな!」
プロ野球に入団したのに、研修の実態は野球ではなく毎日の半分が説明会や勉強会である。
テレビやスポーツ新聞などでは拝見したことない、それこそ無名の人たちが講師であって、あこがれの先輩選手たちの講演などは無く愚直な研修期間だった。
勉強会って何の勉強をするのかって? そりゃ野球のルールもあるが、どちらかと言えば、人間性の向上を課題としているようだ。
例えば先輩とすれ違った時の挨拶、それと、もし報道陣から話しかけられた時の対応などがそうである。
キャンプで用意された食堂はベテラン、若手が区別なく利用できる唯一の交流場所である。
その食堂に繋がる廊下での事、つい先日このようなことが有った。俺の少し前を或る有名選手が歩いていた。
「ヤッタと思った俺だったが、どうしよう?・・前に回り込んで挨拶しようか? こんな機会なんて滅多に有れへん、オカンに聞かしたったら、さぞかしビックリするやろな⁉・・」
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