プロ野球に就職

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 俺は思い切って足を速めた、しかし対面は実現しなかった。その有名選手は後ろから小走りで俺を追い越していった4~5人の報道陣に囲まれてしまったからだ。報道陣は食堂内立ち入り禁止になっているため、廊下で待ち伏せしていたみたいだ。 勿論、俺は報道陣を理不尽な奴らだと思った。 それは報道陣が、有名選手に挨拶しようとした俺の邪魔をしたからだけではない。つい先日まで女子高ファンを引き連れていた、この俺さまに気づくどころか、むしろ小走りで通り過ぎて行った無礼への怒りかも知れない。  この年の暮れは寮生活から解放された若手選手の殆どは親が待つ実家へと戻って行った。 勿論、俺もそのうちの一人だ。 俺の新年は実家のテレビの前で過ごすことから始まった。相変わらずだが、俺宛てのファンの年賀状は沢山届いていた。勿論、その多くは高校時代のファンである。しかし昨年には見られなかった年賀状もいくつかあった。    その差出人の殆どは、タートルズの球団関係者や監督・首脳陣からである。 だが、想像もしなかった人からの年賀状を見つけたのである。 そこには・・ 「お前は、3塁をやってたけど、ピッチャーを目指せ!お前がファストにスローイングする球は、ただ者ではあらへん!」  新年の挨拶文に、こんなメッセージの年賀状を差し出したのは、妹が俺のファンだと言って、サイン色紙を差し出した、あの轟先輩だった。 「俺がピッチャーってかいな? 冗談は佳子さんや! ピッチャーなんか小学生の時に草野球でやった切りや、先輩の頭・・ひび割れとんのと違うやろか?」
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