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「私も……寂しいと思ったんです。でも、社会人としてそんなのは甘えてるかもしれないって思って……」
「そうかもね。でも、正直な気持ちなんだからしょうがない。僕はその気持ちに嘘をつくことはできないし、琴莉にはわかっていてもらいたいと思うよ」
社内では決して言えない。だが、二人の間でなら言ってもいいのだ、そう思った。
琴莉は腕に力を込める。
「公私とも隼人をサポートできることが嬉しかったんです。でも異動すると、仕事ではサポートできなくなっちゃうから……」
「琴莉はもう十分サポートしてくれたよ。これからもずっとっていうのが希望だけど、琴莉は琴莉のキャリアがあって、より上を目指せるならそうしてもらいたい。僕はこれまで自由にやらせてもらったし、これからもそれは変わらない。自分の仕事が好きだし、もっと上を目指したい。だから琴莉の気持ちはよくわかるんだ」
「……はい」
「職場で会えなくなるのは正直チェッて思うけど、僕もいつまでも甘えているわけにはいかない。ここはちゃんと大人になって、琴莉を送り出したい」
隼人の腕が僅かに緩み、琴莉はようやく顔を上げることができた。隼人の表情は複雑ではあるが、納得していることが伝わってくる。
隼人はコツンと額同士を合わせた。
「でも、家ではこれまで以上に琴莉を独り占めにするからね」
「……っ」
一気に鼓動が速まる。額が離され、目が合う。どこか切なげな隼人の瞳に、琴莉の胸がきゅっと詰まる。だから、思わず身体が勝手に動いてしまった。
「……琴莉?」
「私だって、隼人を独り占めにします」
「……ったく」
呆れたような口調なのに、行動は全く伴っていない。
隼人は琴莉を掻き抱き、唇を重ねた。奪うようなそれに、琴莉の身体から力が抜けていく。トロンとした表情の琴莉に、隼人が艶のある笑みを見せた。
「お返し」
「私、ほんの軽く触れただけだったのに」
「琴莉からキスしてくれたことなんて、初めてじゃない? 火を点けるには十分だ」
「……」
頬が火照ってくる。先ほどの自分の行動を思い起こし、恥ずかしくなってしまった。だがあの時は、どうしても自分から触れたいと思ってしまったのだ。
「嬉しかったよ」
「……っ」
耳元で囁かれ、ビクリと身体が反応する。隼人の長い指が琴莉の髪を梳き、唇が耳朶を食んだ。声が出ないように必死に堪えるが、そうすると隼人が更に行為をエスカレートさせていく。
「はや……とっ……」
「煽った責任は取ってもらおうかな」
目尻に滲んだ雫に形のいい唇が吸い付くように触れる。隼人が妖艶に微笑み、琴莉はそれを見た途端、降参の白旗を掲げる。
煽ったつもりは毛頭ないが、隼人に求められることが嬉しい。心も、身体も──。
琴莉が小さな声で「はい」と返事をすると、隼人は触れ合わせるだけのキスを落とした。次の瞬間には、低い、艶のある声が琴莉の耳をくすぐる。
「ベッドに連れていくよ」
宣言されると、一層身体に熱がこもる。琴莉はたまらず隼人の胸に顔を埋めた。
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