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「あ、もうこんな時間ね」  南波は時計を見る。  デジタル時計は00:00を点灯させていた。 「そろそろ寝ましょうか」 「明日も一限だしな」  僕は本を置く。南波はスマホに充電コードを差す。  そして僕たちは歯磨きをして、布団に入った。 「ねえ」  南波は甘えた声を出す。  仰向けだった彼女はころんと転がってこちらを向いた。 「……0みたいにして」    彼女が何を言っているのか、僕以外には誰も分からないのだろう。  僕はそれが本当に尊くて素敵なことだと思った。  これは運命的に出会った、僕たちだけの言語だ。 「0ほどの包容力は、ないけど」  僕も横を向く。  ほんのり赤みがかった顔の彼女を、両腕で包むように抱き寄せた。 「……ふふ、あったかい」  彼女は自分の両腕を僕の背中に回しながら嬉しそうに言う。  けれど僕には、彼女のほうがあったかく感じた。  数字にはない温度を抱き締める。 「おやすみなさい」  呟く彼女の声と吐息が僕の胸元に当たる。  僕はさらりと柔らかい髪を撫でながら、目を閉じた。  そして、二人の重なる部分から、ゆっくりと僕たちの体温が融け合っていく。   「おやすみ」  やがて距離も温度差も0になった僕たちは、とろりと甘い微睡みに落ちていった。 (了)
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