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「魂が入っているのはわかってます。でも、だからなんなんでしょう。魂が入ってる人形があっちゃダメなんですか? 私はこの子を愛してあげたい。大事にしてあげたい。そう思うんです」
「…………」
「ダメ、ですか?」
二人が私を心配してくれているのはわかってる。でも、それでも私はこの子のそばにいたかった。
たとえ、この仕事をクビになったとしても。
「これ以上止めたら、ここを辞めてでもその人形を連れていくって顔してるぞ」
「えっ」
「ったく」
柘植さんがため息を吐く。そんな柘植さんの腕を律真さんは慌てたように掴んだ。
「お、おい。お前、まさか」
「仕方ねえだろ。こんなやつでもうちの大事な従業員だ。それに、魂が入ったままの人形を野放しにできない。それなら目の届くところにいてくれる方がまだマシだ」
「それじゃあ!」
「その代わり、そいつも一緒に出勤すること。それから、お前もう少し俺の近くに引っ越してこい」
「は?」
柘植さんの提案に、私は間の抜けた声を出してしまう。だって、今なんて?
思わず柘植さんの隣にいた律真さんの方を見るけれど、同じように呆けた顔をしていた。
「あの、それはどういう」
「そいつが暴走したときに今みたく離れた場所にいられたら送魂しに行けないだろ」
「あ、そういう……」
「ビックリしたわ……」
引きつった笑いを浮かべる私たちに、柘植さんは怪訝そうな表情を向ける。そんな柘植さんに苦笑いしか出てこないけれど、それでも何かあれば助けてやると、そういう意味だと受け取って、私はムーミーちゃんに向き直った。
「ね、私と一緒にいよう? 今までの分も私がいっぱい愛してあげるから」
「……本当に? あなたは私のことを棄てない?」
「棄てないよ」
「絶対?」
「絶対! 約束する」
私の言葉に、ムーミーちゃんはふへっと恥ずかしそうにはにかんだ。その身体からはもうあの真っ青の悲しみに満ちた感情はなく、代わりに愛情と幸福で満ちたピンク色で覆われていた。
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