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エピローグ:新しい明日へ
一ヶ月後、私は無幻堂から徒歩五分の場所にあるワンルームマンションへと引っ越した。もちろんユーミーちゃんと一緒に、だ。古いマンションをリノベーションしたのだというそのマンションは外観は少し古かったけれど中は真新しいマンションと遜色なかった。
これからここで新しい暮らしが始まるんだ。
「おい、これはこっちでいいのか」
「明日菜ちゃん、これクローゼットに入れとくな」
「ありがとうございます!」
手伝いに来てくれた柘植さんと律真さんのおかげで、ほとんどの段ボールが片付いた。あとは細々したものを出せば終わりだ。
「ふうん? 小さいけれど綺麗じゃない」
「でしょ? これからここで一緒に暮らすんだよ」
あの日、さっそくムーミーちゃんを連れて帰ろうと思った私を、それだけはダメだと柘植さんと律真さんが止めた。そのせいで、今日引っ越しして来るまでの間、終業後は柘植さんのお店で預かってもらっていた。
だけど、ようやく一緒に暮らすことができる。
「楽しみだね」
「そう?」
口ではクールぶっているけれど、さっきからずっとピンクの感情がふわふわしているのが見えている。ふふ、と笑みがこぼれる。
四ヶ月前、いきなりクビになり職を失ったときはこんな生活が待っているなんて思ってもみなかった。でも、今はあれでよかったのだと心からそう思える。
送魂という仕事を通じて、人の顔色を気にするだけじゃなく本当にその人に伝えなければいけないことを伝えることの大事さを知った。私が本気で伝えなきゃ、相手の心に響かないということも。
「片付けは落ち着いたか? それじゃあ、仕事に戻るぞ」
「そうそう。早う帰らな詩が首長くして待っとるわ」
「はい!」
私たちは今日も人形達に話しかける。
誰かが大切にしてきた人形に宿る魂をあの世に送るために。
人形達の人を想う気持ちを、笑顔を守るために。
~第一部 完~
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