毛並みの良い高額そうな

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毛並みの良い高額そうな

 この仕事をしていればそれなりに不可思議な出来事に遭遇すると世間にも噂程度にも流れ、諸先輩方もそう言った。  けれど、だが、こんなことが本当にあり得るのかと思った。  地元が同じであることは聞いていた。それが話題となって会話が弾んだことも。中途半端な街、山の中の田舎でもなく、なにもないわけでもない。けれど都会へ人は流れ続ける。  こんな小さな世界であれば、あり得るのかもしれない。同僚もきっと、地元の親族がそうなることもあるのだろうが、しかしその場合、彼等はこちら側ではなく皆と共にあちら側にいるはずだ。自分はあちら側ではなかった。部外者として、従業員として、こちら側にいた。  こんなことあるかよと零す前には呆然として、同僚に小突かれた後は思った以上に困惑して出来るはずのこともままならない程動揺もした。〝司会〟が話し始めた時には既に耐えられなくなって会場も出た。まるでこちら側の気持ちにはなれやしなかった。  若い故人の見送りとなると、急激に思い起こされてしまう。まるで重なったその日が同時に視界の中にあって、誤差でもう一度、その日を繰り返しているような。  まして同じ季節、秋の終わりと冬の始まり。まだその姿を見ていないだけで十分に冬らしい寒さで、これで雪もちらつけば、完全にあの日と一致したことだろう。  この日入った葬儀はバイクで事故死した若者だった。まだ二十一の若さ、バイクと聞いた時点ではどんな無茶をしたのだろうかと感じたが、案外にもご遺体の損傷はなかった。幾ら修復の手がうまくても、酷い場合はどうにもならない。若者は首から上が綺麗なままで、早すぎる死に対してそれだけは、遺された者に孝行をした。  勝手知ったる葬儀の流れも、それぞれによって多少は違う。それは主に親族と参列者によって生まれる差だが、この日のものはあの時と随分似ていた。参列者の色合いが、似通っていた所為かもしれない。  目立つ頭が何人もいる。俯いた派手な髪が参列者の後方に集まり、両壁に並んだ供花よりもずっと鮮やかだった。あの時もこんな感じだった、記憶に残っている限りでは。  正座に経、線香のにおいに特有の部屋の暑さ、追い打ちのような説法。慣れないものばかりで眠くなるのも仕方なく、殆どの頭が俯く中、はっきりと目が合ってしまった。派手な頭の一人、合ってしまった目も随分な美人がいるなとこちらが視線を向けた所為だと思ったが、すぐに外した割にその目が暫くの間こちらに向けられている気配がしていた。  毛並みの良さも相まって、派手な髪の色が三十万とか四十万とかしそうな、犬や猫のような色をしていると思った。  通夜ふるまいが始まり食事の配膳と泊まり用の布団を敷いた後には皆事務所に戻り、夜勤を残して退勤となる。  一日置いてからまた葬儀が入っていた。「今日のと一緒に事故った相手だそうだ」と同僚が言って、今日の参列者の彼等は、ほぼ、四日続けて葬儀と通夜、火葬となるのかと憂鬱に思えた。三十も後半になってもあの衝撃には耐えられなかった。まだまだ若い彼等は、どうしてこの四日間を、その後の数年を乗り越えていくのだろう。
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