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考えすぎるとまた気味が悪くなるのでやめた。ガラス戸に水をぶちまけ、雑巾で拭きまくった。汚れだとか雨の跡だとか言われてたまるもんか。恐怖を怒りで押さえ込んで、拭いて拭いて拭きまくった。
それから数日間、神経過敏になったのか、上階からの足音に悩まされた。それだけでなく、夜中に玄関をノックする音が響いて、あまりの恐怖に布団を頭からかぶって震えていた。一体誰が一人暮らしの女の家に、夜中に連絡もなく来るのか。しかもチャイムも鳴らさずノックだなんて。
気味が悪い。家に居たくない。明日は友達の家に泊まらせてもらおうと、何度も何度も心の中で唱える。その夜は暴風雨が吹き荒れ、窓を揺らす風雨の音がまた恐怖をあおった。
ふと気くと、外から鳥のさえずりが聞こえていた。それから、車の音。人の話し声。
堅くつぶっていた目を開いて、呆然とベッドに座り込む律子の目の前に、カーテンの隙間から明るい光がさしこんでいる。朝だ。律子はホッとして、カーテンをあける。
少し風雨で汚れた窓に、またべったりと、上から下までびっしりと、子供の手形がついていた。
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