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先輩の、家庭の事情について
次の日。
慎とつぐみ、そして祐介は3人で並んで歩いていた。
「へーえ、じゃあ今日は2人の初デートってことになるのか。遂に2人もそんなことになったんだねぇ。出会った頃は喧嘩ばかりして、こっちは大変だったけど」
あはは、と笑う祐介の言葉に2人は気まずそうにしていた。
「まあ、デートっていうか、その、話の流れでそうなっただけで・・」
そうもごもご言うつぐみに慎は不機嫌に言った。
「なんだよ。俺のようないい男と出かけられる機会など、お前の人生では2度とないぞ。有難く思え」
「いや、そうなんですけどね。顔は良くても頭おかしいんだよなぁ、この人・・」
「言っとくけどな、お前も結構おかしい部類だと思うぞ。特に女子力の低さと言ったらなんだ。化粧のひとつも出来ないわ、生理用品は剥き出しだわ・・」
祐介は2人のやり取りを見て微笑ましげに笑ったが、同時に若干の寂しさも感じていた。
祐介は小さい頃から慎を見てきて一番の観察者だった。慎が何か問題を起こすたびに「今度は何をやらかしたんだ」と目を輝かせて見ていた。昔から要領のいい祐介の目には慎の行動はいつも " もうちょっと上手くやれないもんかね " と呆れるものだったが、予想外の行動でいつも祐介を楽しませてくれたのだった。
そして実は複雑な慎の家庭環境のことなども熟知しており、その事で傷ついてきたことも知っている。だから慎を本当に理解できるのは自分だけ、と思っていたのにそこにつぐみが現れた。
祐介はつぐみのことも好きだった。彼女もまた、予想外の言動で祐介を楽しませてくれた変わり者だった。出会ったときはまさか慎がここまで彼女に入れ込むなどとは予想していなかった。最近の慎のつぐみに対する行動は完全にストーカーと化していてそれはそれで笑えたが、当のつぐみ本人がそれを許容しているのだからもう祐介の出る幕ではない。
「まあ仕方あるまい。俺も早く別の玩具を見つけるか。しかしあの2人以上に興味深い人間などそうはいるものかね・・」
祐介はそう溜息をついたのだった。
祐介と別れて2人は街へ買い物に出かけた。
12月ということもあり、街道はクリスマス一色となっていた。
慎はこの雰囲気が嫌いだった。皆が浮かれているのがまた慎を苛つかせた。キリスト教徒でもないくせに何を揃いも揃って浮かれているのか理解に苦しむ。
彼の家ではクリスマスに両親が揃うことはなかった。父親はおらず、母親は決まってこの日は男と出かけていったので慎は一人で過ごした。周りの家ではケーキが並べられ、皆が幸せそうにしていた。キリストには何の恩義も感じないから祝わない、それだけなのに何故自分が劣等感を感じなければいけないのだろう。
「これにしよっかな」
隣でつぐみがそう言ったので慎は昔の記憶から開放された。
「買ってやるよ。もうすぐクリスマスだし」
と言ってつぐみの手からポーチを取り上げようとするが、つぐみがそれを制した。
「いいですってば。あまり買って貰ったりすると、申し訳なくて次誘いにくくなります」
そうつぐみが言ったのを聞いて、彼は機嫌を良くした。次があるのか。そして慎は言った。
「んー・・。でもそれ買わせないと、勢いあまって指輪とか買い出すかもしれないぞ、俺」
そう顔を覗き込まれてつぐみは遂に吹き出した。
「あははは!なんですかその脅し文句!新しいですね」
確かに先輩ならあり得る!とつぐみは笑った。そして諦めて手にしたポーチを慎に渡した。
慎は誰かにクリスマスプレゼントを買うなど初めてだった。つぐみが喜べば、少しはこのイベントを好きになれるだろうか。そんな気持ちだった。
「先輩は何か欲しいものないんですか?」
「んー。別に・・」
「自分も何かプレゼントしたいのですが、でも自分に選ばせるとセンスマイナスのもの選びますよ」
そうつぐみも珍妙な脅し文句を言った。慎は確かに。と言って考えた。
「・・クリスマス当日、一緒にケーキ食べてくれればそれが一番いいかな・・」
そう呟いた慎の横顔は、不思議と寂しそうに見えた。どうしてだろう。時折り見せるこういう表情が無性に放っておけなくさせる。
「そっか。先輩甘党でしたね。分かりました」
つぐみは明るく笑いかけた。この不機嫌な王子様を少しでも喜ばせてあげたい、またそういう想いにかられながら。
その時だった。
「慎・・?」
声がした方に2人が振り向くと、そこには長身の青年が立っていた。黒い短髪で切長の瞳の男っぽい、慎とは違ったタイプの美青年。
「悠・・」
そう言った慎の表情は険しかった。
(・・誰?)
つぐみが2人の顔を見合わせると、悠と呼ばれた男性は笑顔で話しかけてきた。
「そんなに嫌そうな顔するなよ。久々に会った弟に」
つぐみは唖然とした。今、この人なんて言った?
彼女は驚きを露わにしたまま自分を挟んで立つ2人のイケメンを交互に見上げた。
「先輩の・・弟!?」
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