二日目 第十話 生存者狩り

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トラックの荷台で揺られながら、俺は先ほどの出来事を振り返っていた。 あの防護服の男は間違いなく言った。 「生存者がいると、困るんだよ」 しかも奴らはゾンビである俺を撃たず、生存者がいるという言葉を聞いた途端、トラックの葵達に向けて発砲し始めた。奴らの狙いはゾンビではない。奴らは生存者を狙っている。いわば「生存者狩り」だ。 何のためにそんなことをするのか? それは簡単だ。自分たちのこの過剰な隔離策を正当化するためだろう。 だって今頃は壁の外側には大学の学生や教職員、それに大学病院の患者や職員の家族達が大挙して押し寄せ、生存者の捜索と救助を求めて当局に詰め寄っているに違いない。しかし早々と鉄板で隔離壁を築き、抵抗する人を撃ち殺してまで封鎖した以上、当局の連中はこう言うしかないだろう。 「我々が大学を封鎖した時にはもう既に生存者はいませんでした、壁の中は全員ゾンビです」 本当は、ただでさえ磁気嵐で世間が混乱している中、パンデミックの原因も状況も分からず、人々のゾンビ化の報告だけ次々に入ってきて、ビビりまくってパニックになったお偉いさん方が 「生存者なんか構うな! 全部封鎖してしまえ! 徹底的に隔離してしまえ!」 と言ったに違いない。 自分達が助かるためには、多少の犠牲は厭わない。いや、むしろ……生存者なんて、救出することになったら面倒だ。それに生存者を外に出すとゾンビパニックが拡がるかも知れない。みんなゾンビになって死んでしまえ。生存者なんていなかったことにしてしまえ。 そして隔離壁が突貫工事で設置された。 ……だから今になって実は生存者がいたっていうことが外に知れると非常に困るのだ。 そのために奴らが壁の中に潜入してきて、生存者の存在を消去しているのだ。 ひょっとすると外向きには「我々は決死の覚悟で生存者の捜索をしています」などと発表しているのかもしれない。実際にやってることは生存者狩りなのに。 昔、列車内で起った感染パニックに対して軍が動き、治療可能と分かったにも関わらず列車を鉄橋から落として全てを闇に葬むろうとする、なんて映画があったな。あれと同じだ。 事態は悪い方向に進んでいる。 陽奈と葵は、ゾンビだけでなく外の人間からも狙われている。いや、あの銃と防護服の奴らに比べたらゾンビなんて可愛いもんだ。トイレのデッキブラシで撃退できるんだからな。 どうしたら陽奈と葵を助けられるんだ。 どうしたら二人を安全に壁の外に出してやれるんだ。 外部への連絡手段は、まだダウンしたままだ。ネットすらつながらない。 どうしたらいいんだ…… 俺はトラックの荷台に座り込んだまま空を見上げていた。
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